神童と天馬
2012/02/02 20:56
トントントン…と調子の良い音と共に、天馬は人参を刻む。
「本当にお前は器用だよな」
「ありがとうございます。料理は秋ネェに教わったんです。」
「そうか。」
ぐつぐつと、お鍋が音を立てる。中ではじゃがいもがころころと踊っていた。
「キャプテンは濃い味と薄味どっちが好きですか?」
「ん?そうだな、今日は天馬の普段の味付けが食べたい。」
「ふふっ、わかりました。」
刻み終わった人参を鍋に流し込む。少しだけ沸騰が収まり静かになる。
「こうして見ると、天馬はお嫁さんみたいだな。」
「じゃあキャプテンは旦那さんですね。」
「なら旦那さんにキャプテンは無いんじゃないか?…今日だけ、名前で呼んで見るか?」
「ええっ!」
天馬は火でも点けたようにかぁっと顔を赤く染めた。そして少し口をモゴモゴさせた後、ちらっと神童の方を見た。
「たくとさん…」
「ん。今日ずっとそれで。」
「そっそれは恥ずかしいですっ!」
天馬は誤魔化すようにそっぽを向くと、慌てて次の調理に取り掛かった。
(本当は今日だけじゃなくてずっとそう呼ばせたいんだがな。)
神童は苦笑いを浮かべながら、料理する愛しい背中を眺めた。
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夫婦の日
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