剣城と天馬
2012/01/23 23:55
授業が終わって外を見ると、曇りガラスのせいで気付かなかったが、雨はいつの間にか雪になっていた。目をキラキラさせながら、窓の外を見つめる天馬の、後ろから誰かが声をかける。
「雪、珍しいのか」
剣城だった。天馬は今日、剣城が兄のお見舞いには行かない話を聞いて、それなら一緒に帰ろうと提案していたのだ。それで、剣城が天馬の教室まで迎えに来たのだ。
「沖縄じゃ見たこと無いし、関東に来てからもこんなに積もってるのを見るのは初めてだよ!」
天馬は剣城の問いに満面の笑みを浮かべると、早く外に出たいと手早く荷物をまとめてたら、剣城の手を引いて昇降口を飛び出した。
天馬たちを待っていたのは、天馬にとってはテレビか写真でしか見たことも無いような白銀の世界。それもホーリーロードのスタジアムのような人工のものではなく天然モノだ。
「うっわー!すっげー!見て剣城!綺麗!」
「うるせえな、嫌でも目に入ってるよ」
剣城が、はぁと溜め息を吐くと、口元は白く曇った。剣城はマフラーに顔を埋めると、繋ぎっぱなしの手を引いた。
「ほら、行くぞ」
「えっ…まだ見てたいのに…」
「だから行くんだよ」
天馬は剣城の言葉の意味がわからず頭に疑問符を浮かべながら引きずられるように歩いた。
最初は誰かの足跡を上書きしていたがいつの間にか道には天馬と剣城2人分の足跡だけが続く場所まで来ていた。冷気が2人の肌を撫でて赤く染める。特に剣城の雪のように白い肌はまるで花を咲かせたように鮮やかな紅が映えた。
「ここだ。」
剣城が連れてきたのは稲妻町のシンボルとも言える鉄塔のある公園だった。まだ誰も踏み入れてないそこはまっさらな雪が雲の上の用に広がっていた。
「わあぁぁ!すっげー!!」
天馬は剣城に掴まれたままの手もお構いなしに、公園の中を走り出す。まっさらな雪に足跡を残す小さな優越感がくすぐったい。剣城は情けなく引きずられ、天馬のペースに飲まれていた。
「見て!池も凍ってる!」
天馬は興奮気味に公園を走り回った。幻想的な雪世界さえ、天馬には走れるグラウンドだった。まさに『犬は喜び庭駆け回り』状態だ。
「へへへ!雪って綺麗だね!」
「そうだな……うわっ!」
遂に、剣城は雪に滑って尻餅をついた。それに巻き込まれる形で天馬もつんのめる。2人は折り重なり、後に転んだ天馬が剣城を押し倒したような体位になった。
「………悪い。」
「ふふふ、剣城って時々ドジだよね。」
天馬は何も気にしてない風だったが、剣城はなんとなく目が合わせられずにそっぽを向いた。早く退けと願いながらも沈黙した。
「剣城、ほっぺが真っ赤。」
天馬は冷たくなった手を剣城の頬へ添えると、薄く笑った。
「こうして見てると、剣城は雪の国から来た王子様みたいだね。」
「何がだ。」
「肌真っ白。雪みたい。」
ふわ、と天馬が剣城の胸に頬を擦り寄せた。公園のど真ん中で抱き合って寝転ぶ男子中学生2人は傍目にどう見えるのだろう、 剣城は他人ごとのように考えながら、天馬の背中に腕を回した。静かに目を閉じると、もしずっとこのままでいて凍死するなら、本望だと思った。
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オチ
「ねぇ剣城。」
「…なんだよ。」
「寒い。」
「………当たり前だろ。退けよ。」
「やだ。」
「帰れないだろ。」
「帰らなくて良い。剣城と居たい。」
「2人で帰るんだよ。お前んちに。」
「…!」
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