月の綺麗な夜
2012/09/08 22:28

鈴虫の声に誘われるようにキャラバンを降りると、その先には既に先客がいた。楽器を叩くようなリズミカルなリフティング。この人は、本当に音楽の神様に愛されているんだと思った。

邪魔をしないように少し離れたところから、そっと見守る。普段なら、迷わず声をかけていたが曲はそういう気分ではなかった。というより、あの綺麗な空間を壊したくなかった。

雲一つない夜空の下で、ボールを操る指揮者とたったひとりの観客以外全てがオーケストラの一員となり、虫やボール風の音が美しい和音を奏でる。
観客が聞きほれていると、突然思わぬアクシデントが起きた。オーケストラの一員が草むらから飛び出し、観客の顔へと飛びついたのだ。

「うわぁっ!?」

葉の擦れる荒い音と悲鳴に、指揮者は動きを止めた。途端にオーケストラは解散し、何事もなかったように好き勝手な音を鳴らす。

「…天馬?」

先程まで指揮者をしていた神童が、天馬の方へ歩いていく。天馬は虫に驚いて腰を抜かし、草むらに尻餅をついていた。小さく溜め息をついた神童は天馬の手を引っ張り、半ば無理やり立ち上がらせると、天馬の尻を軽く払った。

「だだだ大丈夫です!神童先輩の手が汚れちゃいます!」

「気にするな。…全く、どうしてこんなところで転んだんだ。」

「虫が顔に飛んできて、びっくりしちゃって」

「それであんな大声をあげたのか…ふふっ」

神童に笑われた天馬は少し恥ずかしくて俯く。それを見た神童はまたリフティングを始めた。ボールの音が再び、虫たちの声と調和する。

「ボールを蹴りに来たんだろ。一緒にやらないか?」

「えっ、はい!やります!」

天馬の答えと同時に、神童が天馬にパスを出す。天馬は神童ほどテンポが良い訳ではないがきれいなリフティングをしてみせる。

「そのままドリブルだ。俺がボールを奪いに行く!」

「はい!」

天馬がドリブルで進むと、神童はそれを奪いにきた。こうしていると、初めてボールん蹴り合った日を思い出す。天馬はあの時よりもかなり上達したが、神童もあの日のままではない。何度も奪い合いを繰り返した。

月が高くまで上るころ、ようやく2人は蹴るのをやめた。草むらに座り、裾で汗を拭った。

「やっぱりおれ、神童先輩の蹴るボールが一番好きです。」

「そうか。俺もお前のボールが一番好きだよ。」

「本当ですか!」

「嘘ついてどうする…」

「嬉しいなー。」

天馬は笑うと、その場に体を倒した。

「またこうして、先輩とボール蹴り合いたいです。何年先も、こうやってサッカーしていたいです。」

「そうだな。」

神童は頷くと、天馬の真似をして寝転がった。真上の星たちが綺麗だった。

同じ場所で同じ空を眺めながら、2人は同じ願いを同じ月に願った。



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ご無沙汰です。
拓天の日おめでとうございます。
相変わらずのやまなしおちなしでした。
拓天ちゃんにこれからも幸あれ〜



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