da capo. (拓天/パロ/鬱)
2012/05/28 23:59

23時59分59秒。
神童の記憶が白紙に返る時刻。正確には、ある人物に関する記憶だけが、だが。



神童が入院する病室に、2人の人物が訪れる。もう夕暮れ時だ。窓の外はオレンジに染まっている。

「…神童。体調はどうだ?」

霧野蘭丸が病室に入ってくると、神童は表情を和らげた。

「順調に回復しているよ。」

「……そうか。」

神童の答えに、霧野は顔色を悪くして目を伏せた。
ふと神童は、霧野の隣に見慣れない人物がいることに気付く。

「それより霧野、そちらの方は誰だ?」

霧野の顔色が更に悪くなる。霧野が口を開くより早く、霧野の横にいた人物が口を開いた。

「はじめまして!松風天馬って言います!霧野先輩と同じサッカー部です!天馬って呼んでください!」

天馬はにこり、と笑った。一層、まずそうな顔になる霧野と対照的な、屈託のない笑顔だ。その笑顔に、神童は心を解される。

「そうだったのか。悪いな、サッカー部の部長だっていうのに顔出せなくて。」

「いえ!キャプテンは悪くないですよ!おれずっと、キャプテンのこと待ってますから!」

「ありがとう、天馬。」

天馬に微笑みかける神童を見て、霧野は拳を強く握りしめる。そんな顔色の悪い霧野を見た神童が、気になって声をかける。

「どうした、霧野。真っ青じゃないか。」

「なんでも…ない……」

霧野は神童から顔を反らした。不思議そうな神童に、天馬が口を挟んだ。

「霧野先輩、部活の時から具合悪そうでしたよね。もう帰った方がいいんじゃないですか?おれ送ります。」

「そうなのか霧野?わざわざ来なくて良かったのに…。」

「いや…」

「霧野先輩はキャプテンのことすっごく心配してるんですよね。だから今日も無理して来たんです、ね?」

「ああ…」

(俺が心配しているのは神童だけじゃない…わかっているくせに…)

霧野が内心で呟きながら、天馬を見る。よく見ると天馬の唇は噛みすぎて赤い。霧野はようやく、天馬の笑顔の裏にあるものを理解した。

「じゃあおれたち、帰りますね。明日も来ますから。」

「無理はしなくていいんだぞ?」

「おれがキャプテンと話したいんです!だから、また明日!」

天馬は微笑みながら、病室を後にした。霧野は神童に気まずそうな視線を送るだけで、無言のまま退室した。

神童の病室を少し離れてから、霧野は天馬の背中に呆れたような声で問いかける。

「…なぁ…いつまで続けるんだ?」

天馬は足を止めて振り返った。俯いて、蚊の鳴くような声で呟いた。震えながら拳を握り締めている。

「…おれに…聞かないでください……」

聞こえるのがやっとな声を拾い、霧野ははっとして目を伏せた。天馬は自分の意志で続けているわけではない。そんなことは愚問だった。

「…悪い。帰ろうか。」

霧野がゆっくりと歩き出す。だが天馬は立ち尽くしたままだ。霧野が振り返る。

「…天馬…」

恐る恐る声をかけると、天馬は笑顔で顔を上げた。顔が赤く、瞳は潤んでいる。

「えへへ、帰りましょ。明日も来るんで、霧野先輩も明日までに元気になってください。キャプテンに心配させちゃだめですよー。」

絞り出したような明るい声色で言うと、天馬は早足で霧野を抜いた。

(…神童…お前はどうして、こんなにお前を愛している後輩のことを簡単に忘れるんだ…)

霧野は天馬の背中を追いながら、決して追い越さないように歩いた。




23時59分59秒。
今日も神童の記憶は白紙に返る。もちろんある人物に関する記憶だけ。

そして今日も、2人は病室を訪れるだろう。もう何年も、そんな日が続いているのだから。



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昔読んだ漫画のネタで拓天
タイトル思い出せないんで心当たりあれば教えていただきたい。



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