まさに言葉の通りだったフィフスセクターとの試合。
そして今、何事もなかったように入学式が行われている最中だ。
「あー・・・もう2年かあぁ」
ぼそっと呟いた言葉は静かな保健室にやけに響いた。
あっ、いっけね。拓人起きたらどうすんだ俺!
軽く身を乗り出し、拓人の顔を窺う。
幸い起きることはなかったようだ。よかった、俺はほっと胸をなでおろす。
その整った顔には小さなカスリ傷がたくさんできている。あーあ、せっかく綺麗な顔してんのにもったいない。

そういえば、

―あいつのあんな顔、はじめて見た。
「俺はキャプテンなんだ!」
拓人の言葉が腹にずしっとのしかかる。
拓人は無理しすぎなんだよ。
・・・キャプテンだから、人に頼らないのか?
キャプテンだから、キャプテンだから。
お前の口癖になりつつあるよな。
・・・最近気づいたんだ。自分はキャプテンなんだぞ、って言い聞かせて、皆で負う責任をひとりで背負おうとしてるだろ。
俺は分かってるんだからな。
何を隠そうが俺には無駄なんだぞー!

・・・だからさ、俺を、俺たちを少しは頼ってくれよ。
そんなに俺は頼りないか?
頼りなくても、胸を貸すことだってできる。話だけでも聞ける。お前の背負ってる荷物だって、半分くらい背負える。
なぁ、キャプテンだからってひとりで何でも抱え込まないでくれよ。
「ん・・・」
微かに聞こえた声は俺のものではない。
「拓人!」
「きり、の・・・?」
拓人の上半身を起こして、ぎゅうっと拓人を抱きしめた。
「な、なんだいきなり・・・」
「拓人、お前のあんな顔初めて見た。凄く怖い顔だった」
ここで一旦切ってからくすっ、と笑みを添える。
「でもさ、俺たちをもっと頼って。皆心配してるんだぞ」
「ごめん、霧野。ああ、そうするよ」

目頭が熱くなった。
俺は拓人と長い付き合いだから、拓人の好きなもの、嫌いなもの、習い事・・・全て知り尽くしてると思ってた。
でも、それはほんの一部で。
神童拓人という人間の百分の一に満たないほどなんだと痛感できた。
拓人にとって俺が一番近い親友だと思ってた。
でもいつからだろう。拓人が遠い。
拓人の気持ち、分かる気がする。

俺は涙を流した。