「出来たぁ!」
時刻は6時ちょっと過ぎ。名前は木枯らし荘のキッチンで料理をしていたらしい。ラッピングを終わらせたのときの時刻は6時53分。
「名前ちゃん、どう?終わった?」
「秋さん!はいっ終わりました!ぎりぎりセーフです」
秋はそれを聞くと、よかった!っと自分の事の様に喜ぶ。
「秋さん、天馬君は?」
「天馬ならもう行ったわ。名前ちゃんも早く行った方がいいわ」
名前は、返事をした後、すぐさま用意をする。そして出かける為に玄関へと向かう。
「秋さん行ってきます!」
「行ってらっしゃい名前ちゃん」
「あっ秋さん!あの、これっ!」
「え?私に…?」
名前は先程綺麗にラッピングをした包みを渡す。そう、今日は大切な人にプレゼントを渡す日なのだ。
名前はこの為に昨日からずっとキッチンに篭って秋と共に料理をしていたのだった。
「はい!秋さんにはいつもお世話になってますから!受けとって下さい!」
「名前ちゃん、ありがとう!」
「えっ、あっはっはい!」
秋はあまりの嬉しさに抱き着いた。余程嬉しかったのであろう。
「あああ秋さん!」
「あらっ、ゴメンなさい。名前ちゃん」
ニコニコと笑みを浮かべる秋を見て、名前はなんだか恥ずかしくなった。そして、どこかごまかすように行ってきますと言いながら木枯らし荘を後にする。そんな姿を秋はどこか微笑ましく見ながら、名前を見送るのだった。
その頃、マネージャー達を含む雷門サッカー部の面々は名前がいない事を気に何かミーティングルームで言い争いをしていた。
「名前からの本命は俺がをもらう!誰にも渡さない!」
「キャプテン、何言ってるんですか!貴方はお兄さんなんだから本命なんて貰えるはずないんですよ!ここは主人公である俺がもらうに決まってます」
「ここは、神童の幼なじみである俺だろ!DF組の中での信頼は負けない!」
「名前から一番相談を受けて信頼があついのは俺だ!」
ミーティングルームを覗けば、先ず最初に言い争うのがみえるのは拓人、天馬、蘭丸、剣城。
「ちゅうか、やっぱし俺が名前にもらうんだって」
「なに言ってるんですか、先輩。僕が名前から貰うんですよっ!ほらっ、僕雷門のマスコットですから」
「信助くん、寝言は寝て言ってよ。本命は絶対僕なんだから」
「はぁ…これだから君たちは。俺が貰うに決まってんじゃん。何言ってんのさ」
「おおお俺だって名前の本命が欲しいです!」
また違う場所を見れば、浜野、信助、輝、マサキ、速水が言い争う。他にも、興味なさそうではいるが、内心欲しいと思っている倉間や、言いたくても言い争いに入れない一乃や青山。この状況に苦笑いを浮かべる三年メンバーなど様々だ。
みんな今日という日を心待ちにしていたメンバーだからこそ、今の言い争いが起こったのだった。この前日は眠れない夜を過ごす者。貰えなかったら…っと不安に落ち込む者など何かしらパニックに陥いる者が多かった(らしい)
簡単に言えば、みんながみんな、名前から渡されたいのだ。しかし、倍率は誰よりも高い。その上、本命は俺が!私が!っと醜い争い。事はエスカレートしていくばかりだった。
「あぁ…名前からの本命か…私も欲しいな」
「だよな…けどあたしたち女だしな」
「確率…低い…」
マネージャー達はお互いに顔を見合わせたあと、はぁ…っと溜息をつく。彼女たちにとって女であるから本命が貰えないのが何より悔しいのだった。
様々なメンバーが言い争いをしている中、当の名前はというと…。
「こんにちは、優一さん!」
「やぁ、名前ちゃん。おはよう」
どうしたんだい?っと優一は穏やかな表情をしながら問い掛ける。名前はすぐに自身の鞄を開けて一つの包みを優一に渡した。
「これは…?」
「プレゼントです!優一さんにはいつもお世話になってるので!」
「ありがとう、名前ちゃん」
「いえっ!」
優一は名前の頭を撫でながら微笑んだ。名前もどこか嬉しそうだった。その後優一からおいとました名前はすぐに冬花の元へ走る。
「あら、名前ちゃん。どうしたの?」
「あっ!こんにちは冬花さん!あの、これ受けとって下さい!」
「えっ…私に?貰っていいの?」
「はいっ!」
冬花は、名前ちゃん!っと嬉しそうに抱き着きながら擦り寄った。名前はあまりの擽ったさにクスクス笑うのだった。
「あっ、じゃぁ…冬花さん、私はこれで!」
「ふふっ、ありがとう、名前ちゃん。また遊びに来てね」
病院を後にした名前が次に向かう場所はとある家だった。ピンポンとチャイムを鳴らせば、はぁい。っと声が聞こえる
「あら、貴女…」
「お久しぶりです!夏未さん!」
「どうしたの?円堂くんならもう出てるわよ?」
「今日は監督じゃなくって夏未さんに用が…えっと、これを渡しに!」
がさごそと鞄をあさったあと、名前は夏未に包みを渡す。
「これを…私に?」
「はいっ!お口にあえば嬉しいんですけど…」
「あっ、ありがとう、名前さん」
ぱぁっと嬉しそうに笑う夏未を見て、名前は可愛いなぁ、と純粋に思うのだった。その後、家に入らないかという夏未の誘いを丁重に断り、名前は学校へと向かうのだった。
その間、ミーティングルームでは、今だに醜い言い争いが続いていた。
「お前らなどに俺の可愛い可愛い名前の本命など渡すものか!」
「シスコンが何を言ってるんですか!?少しは妹離れして下さいよ!」
「狩屋!お前も少しは先輩を立てることを覚えろ!!」
「はっ、霧野先輩を立てても意味ないじゃないですか!やっぱり馬鹿ですね!」
「やっぱり一番はあたしだろ!」
「名前の一番は親友の私です!」
「親友じゃ…その先には…いけないよ?」
男子も女子も我こそは!っとの言い争い。そんな様子を監督たち大人組は何も言わずに見守っていた。
「いやぁ、なんか懐かしいな!」
「…懐かしいって…円堂、お前な…」
「明さん!私も入っていいですかね!あっ、勿論一番は明さんですけど!」
「あ、ははは…あっありがとう?」
大人達はどこか自分たちの中学時代を思い出していた。特に明はあまりいい思い出がないのか、どこか名前に同情にも似た気持ちを持っていたのだった。
「遅れてすみません!ってあれ?何してるんですか?」
言い争いがあまりにも酷くなったときだ。ミーティングルームの扉が開き、名前が現れた。
「「「名前!」」」
全員が素早く名前に近づく。まるで、自分が先に!っという勢いだ。
「あっ、あの…みんな…?」
そんなメンバーに怖じけづきながら、名前は一歩下がった。
「名前!」
「なっなに?」
凄い形相で見ながら名前を言う天馬に名前は慌てて返事をした。
「今日は、その…あの…」
言いたいけど言い出しにくい。そんな雰囲気が天馬を襲った。そんな天馬を不審に思った名前は首を傾げた。
「天馬君?」
「っ…」
頭をコテンと傾げる姿に部員とマネージャー達は顔を真っ赤にさせた。一つ一つの行動があまりにも可愛くみえたからだ。
「名前、あっあのね!今日はほらっ、大好きな人にプレゼントを贈る日じゃなかったっけ?」
まるでフォローを入れるかのように葵がさりげなく言葉を発した。ちなみに、主に大好きの部分を強調した事は誰もが気づいてたりする。しかし、名前はそんな言葉の強調にも気づかず、あぁ!っと納得した声を出した。
「天馬君、いきなり"今日…"とか言って黙っちゃうんだもん焦っちゃった!私、さっきまで配りに行ってたんだよ!」
「配りにって…だっ誰に?」
問い掛ける拓人に名前は先程配りに行った、秋、優一、冬花、夏未の名前を出した。
「兄さんにも…」
「うんっ!優一さん喜んでくれたみたいですっごく嬉しかったよ!」
剣城はこの時、兄である優一を心の底から羨ましがった。他にも、過去のマネージャー達の名前も上がった事で、現マネージャーである葵たちや春奈も羨ましく思うのだった。
「あっ、みんなにも渡さないと!」
名前がそう言うと、一瞬にして全員の表情が変わった。いったい誰が一番なのか。それが問題に変わった瞬間だった。
「名前、あっあの…」
「あっ葵!はいっこれ!あと、水鳥先輩と茜先輩にも!」
「あっ、ありがとう!」
「サンキューな!」
「ありがとう、名前ちゃん」
マネージャーたちが渡されたのは可愛くラッピングされた黄色の包みだった。それを貰うやいなや、マネージャーたちは三人一気に名前に抱き着いた。
「くっ苦しいよ、みんな」
「もう!名前は本っ当いい子なんだから!」
「名前、まじで好きだよ!」
「名前ちゃん、可愛い」
「へっ?えっ?」
いきなり三人からのアプローチに、名前は顔を真っ赤にさせた。
「こらっ!そこのマネージャーたち!離れろ!名前が困ってるだろ!」
拓人の言葉にマネージャー達は名前を見た。名前はあまりのアプローチに困り果てたような、微妙な表情をしていた。そんな表情を見たマネージャー達は渋々名前から離れたのだった。
「あ、あの…先輩方、これどうぞ」
名前はほとぼりが冷めたその隙に、三年メンバーと拓人と蘭丸を除く二年メンバーに緑の包みをそれぞれ渡す。
「ありがとうな、名前」
三年メンバーはまるで娘のように可愛がっている名前からのプレゼントを純粋に嬉しく思い受けとった。
「おっ、サンキュー!」
「ありがとうございます」
「ありがとう!」
「おぉ!悪いな名前!がははっ!」
「ふっふんっ…まぁ、貰ってやるよ」
二年メンバーはそれぞれ本命ではなさそうだが、貰えた。という喜びを噛み締めながら名前から受け取る。中でも倉間は嬉しいくせに意地をはってか、顔を赤くしながらそっぽをむきながら受け取っていた。大したツンデレぶりである。
「えっと、後は…あっ、信助くん、輝くん!はいっ、これ!」
「「あっありがとう、名前!」」
信助と輝は貰った瞬間いきなり二人で手を繋ぎながら、クルクル回りながら喜びだした。
「二人とも、大袈裟だよ」
「そんな事ないよ!名前から貰えたんだよ?すっごく嬉しいよ!」
「ありがとう、名前ちゃん!」
「っ、そこまで行ってもらえるなんて…私もすっごく嬉しいっ!」
名前はあまりの嬉しさにいきなり二人に抱き着いた。純粋に褒められて相当嬉しかったのだろう。
「ちょっと名前!自分から抱き着くのはダメっ!」
そう言いながら間に入ってきたのは葵だった。この行動の裏にあるのは所詮嫉妬。他の周り者たちも今にもこのマスコット的二人に制裁を加えそうな勢いだった。特に酷かったのは言わずと知れた拓人だった
しかし、それを間一髪止めたのは葵。まぁ、ただの偶然なのだが…つまるところ、この二人の運が良かったと言ったところだろう。
この後、信助と輝は拓人や天馬たちに呼び出しをくらい、ミーティングルームから少しの間出て行ってしまったのだった。
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