main_log | ナノ
(21)

「無事で帰って来い」

去り際に耳にした声は、真剣であるあまりいつもの口癖を失っていて、それでいてどこか細く弱かった。
その時俺は突き放すように肩を押さえて、満面の作り笑顔を見せて約束したけれど

「ごめんな、マルコ」

どうやらその約束、守れそうにねぇや



瓦礫に流れていく己の赤を眺めて、約束のひとつも守れない自分を嘲り笑う。
体はとうに痛覚を通り越していて、ドクドクという心音だけが頭に響いていた。

見上げた空がやけに広く眩しい。
人の気も知らずによく明るくいれるもんだ、と皮肉を頭の中で唱えて目を閉じた。
脳裏に浮かぶのは、最後に触れた逞しい背中と腕、そしてやっぱりあの弱い声色だった。

意識は次第に闇に呑まれていく。
遠くで笑うティーチの声が更に遠退いて、大好きな人の笑顔は浮かんですぐに消えた。





(1+2)

「ひだるま……「火」「達」、ま…ま…」
「何してんだい」
「や、技名考えててさ。「ひだるま」ってのを漢字にしたいんだけどよ」
「ああ、それで読めもしねぇ辞書開いてんのか」
「ひどいな!…て、確かに使ったことねぇけどさ」
「はぁ。で、何を調べたいんだい」
「お!代わりに調べてくれんの!?「ま」だ、「ま」!」
「馬鹿言えお前がやるんだよい。ほら、ここの索引から探して…」
「ふんふん……うん、うん。っおー!あった!」
「(世話が焼ける……)」





(12)

「見てみろよマルコ、空が青いぜ」
「おー、そうだな」
「風も気持ちいい」
「おう」
「こんな日に空飛べるなんて、鳥がうらやましいよ、鳥が」
「…何が言いてぇんだよい」
「ん?俺もこの風に乗ってみてぇなぁって」
「…そうかい」
「俺もこの風に乗ってみてぇなぁって」
「……ようは俺にお前を乗せて飛べ、と?」
「…えへへ、」





(21)

「うわっ、マルコ手冷たっ」
「お前は寒い寒い言いながらそんな冷たかねぇじゃねぇかい」
「俺はこれでも冷えた方なんだよ。マルコが冷た過ぎんの!」
「そうかい?じゃあ、」
「あ、ちょっ!手離すなよせっかく繋いだのに!」
「冷てぇっつって嫌がったのはどこのどいつだい」
「嫌がってないから!マルコは俺があっためんだから手離すな!」
「っおい!恥ずかしいこと大声で言うんじゃねぇよいこのアホ!」





(12)

「マールコっ、ドア開けてくれ〜」
「なんだよい……って、何やってんだい」
「突っ立ってないで手伝ってくれよ、重てぇんだコレ」
「何だい、これは」
「"こたつ"っていう暖房機具らしいぜ。倭の国に遠征に行ったやつが土産にくれたんだ」
「へぇ。で、なんで俺の部屋に持ってきた」
「いっしょにあったまろうと思ってさ。このスイッチをいれて…よし、ついた。ほら、マルコとなり」
「わざわざ持って来るこたねぇだろい。」
「いいだろー。一番にマルコに見せたかったんだ」
「…そうかい」
「ほら、入って入って!」



「………で、こんなデカいもの持ち込んで、いつまで居座るつもりだい」
「ん?こたつがいらなくなるまで?」
「………」





(12)

「幸せの青い鳥って知ってる?」
「何だいそりゃ」
「そのまんまの意味なんだけどさ。青い鳥って幸せを運んで来てくれんの」
「へぇ。つっても迷信か何かだろい」
「普通はな?」
「普通?」
「うん。だって俺は実現してるわけだし」
「……ああ、」
「ちゃんとその鳥に幸せ分けてもらってるし」
「………」
「毎日こうやってマルコと一緒にいれるのってすんげー幸せなんだよなぁ。…って、マルコ?顔赤いよ?」
「!!っは、恥ずかしいこと抜かしてんじゃねぇよい!!」





(12)

暗闇の中己の足を床につければ、古びた床板のぎしりときしむ音がする。明かりは付けずに歩き慣れた部屋の中をすり抜け、扉を開ければ冬独特のキンと澄んだ空気が剥き出しの肌に染みていった。見上げた空には月はおろか星すら在らず、ただただ深い黒だけが広がっていた。ぎしぎし足音を鳴らしながら目的の場所に歩みを進める。自分の部屋から数メートル先、丸窓から漏れた橙の明かりが暗闇の中に浮かんでいた。
コンコン
手の甲で軽く扉を叩くと、中から「どうぞ」と聞き慣れた声がして、木製のそれが開かれる。暖かな明かりが一瞬にして俺を包み込んだ。

「……マルコ」

何かに引かれるように手を伸ばせば、マルコはふっと口元を緩めて迎え入れてくれる。縋るようにその胸に飛び込むと、大きな手はいつもより柔らかな力で抱きしめてくれた。

「何やってんだい、こんなに冷やして」
「あっためて貰おうと思って」

へへへ、と笑って肩に額を擦りつける。優しい溜息がおりてくると、その安心感からか久しく訪れることのなかった睡魔が自然とやってきた。ゆったりとした微睡みに目を閉じて身を任せる。

「おやすみ、エース」

徐々に薄れていく意識の端で聞こえたのは、心地好い低音と扉の閉まる乾いた音だった。





(12)

「バナナ派とパイナップル派に分かれるのか…」
「……何の話だい」
「あ、いやいやこっちの話。俺的には、うーん…パイナップル、かなぁ…」
「馬鹿にするなら俺のいないところでしろよい」
「面長だもんなぁ、シルエットは絶対パイナップル」
「…聞いてんのか、阿呆」
「まぁ確かになぁ、このバナナのお菓子のパッケージのキャラはマルコにそっくりだけど…」



「おい、エース」
「ん?どしたの、怖い顔して」
「いい加減にしろよこの 歩 く 1 8 禁」
「は!?歩く…?、え!!?」





(21)

「…この辺?」
「い゛っ…!」
「あっごめん、じゃあこっち?」
「ん゛、っふ……痛、ぇ」
「おっかしいなぁ…」
「は…、っん゛、もういい…どけ」
「えー今始めたばっかじゃん、マッサージ」
「てめぇのは力任せに押してるだけだい。さっさとそこから退け」
「えー…」
「退け」
「………やだ」
「俺もお前にやられるのはもう嫌だい」
「…マルコが嫌なのは、マッサージ?」
「…?それ以外に何があんだよい……っておい、どこ触ってやがる」
「マルコが痛がってるの見たらムラムラしちゃった。ヤろ」
「アホか。俺は嫌だっつってんだよい」
「嫌なのはマッサージだろ?問題ねぇじゃん。よしヤろうさーヤろう」
「ゲスい言葉並べんじゃねぇよい。っん、おい、エース…!」
「もう無理止まりませーん」
「ッぁ…!く、そ…このガキ!」





(12)

「ねむ…」
「だから先に寝ろって言ったんだよい」
「だってー…。仕事まだ終わんねぇの?」
「あと1、2時間くらいかかるんじゃねぇかい」
「まじかよ〜……ん、ねむ………」
「寝てろアホ」
「…ん、……一緒に寝たい……」
「……」



「…、あの、マルコ?」
「……なんだい」
「仕事、終わったんですかね…?」
「あの短時間で終わる訳ねぇだろい」
「…じゃあなんで、ベッドで寝てる俺のとなりにいるのでしょうか、」
「……嫌なら戻っちまうぞい」
「あっ、いや、うそ!腕枕嬉しいです!」
「ならさっさと寝ろい」
「じゃあ腕枕ついでにおやすみのちゅーも」
「調子に乗るな」
「痛っ!」
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -