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※41前提2→1
※サッチが亡くなった後





今日もマルコは強かった。

朝から攻めてきた敵をあっという間に一人で片付け、山のように積み上げられた書類の仕事を仕上げ、困っている隊員を見つければ手を貸し、親父やナースへの気配りも忘れない。
仏頂面ではあるが、身内にはあたたかく、それでいて強く賢い、まさに憧れの隊長。昔からその素質は飛び抜けていたらしいが、最近の働きぶりには誰もが目を見張っていた。

俺は、それが少し気に入らない。

だって完璧に見えるのは表面だけだ。かっちかちの鉄鎧のような仮面。それはつついたら崩れてしまいそうな程脆くなった中身を、必死で守っている。仲間には隠しきれてるつもりだろうけれど、俺にはわかっていた。

なぁ、無理してんだろ。


「マルコ」
「なんだい」
「大丈夫かよ」


今も黙々と机仕事をこなしていくマルコの向かい側にしゃがみ顔を覗き込む。目の下にうっすらとできたクマが痛々しい。


「いつものことだろい」


俺の頭を撫でる手はずっと前から知ってる大きな手。だけど、俺を安心させるためかふわりと作った笑みは大海賊の1番隊を任された男とは思えない程情けなくて、その瞳はどこか悲しげに揺れていた。


「でも、」
「平気だよい」


用がないなら部屋へ戻りな。
まるで鎧を取ってくれるなとでもいうように、優しくも厳しい声色で制される。溜息をつき、一回瞬く間にきりりと隊長の目に変化させたマルコの眼光が強く俺を貫くと、これ以上は何も言えなくなってしまった。

――まただ、畜生。
ここ最近、こうして部屋を訪れる度に同じ方法で押し返される。何度やっても、その鎧に手を触れることすら許されない。マルコとは仲はいい方だと思っていただけに、最初はそれなりにショックだった。

こんな時、ふと思う。
あいつは――サッチは、どうしていたんだろう、と。
サッチはマルコの同僚で、親友で、ライバルで、恋人だった。他人と距離をおくマルコが、唯一心を開いた人物だった。その証拠に、あの頃のマルコは今よりも人間味があって――変わらず仕事人間ではあったけれど――こんなふうに自分で自分を追い詰めるようなことはなかった。
そんな稀少な存在であったサッチは、鉄壁の守りを誇るこの男をどうやって癒していたのだろう。一体どうしたら、あいつのいなくなったこの船に昔のようなマルコの笑顔を取り戻せるのだろう。考えても考えても、答えは出ない。無力な自分に腹がたった。

考えを巡らせている間にも、マルコはテキパキと書類を片していく。今日もまた諦めた俺は立ち上がって扉に手をかけた。去り際に見えた彼の横顔に心臓が締め付けられたけれど、いつものように気づかないフリをする。

ペンを止めて、一点をじっと見つめる青い瞳は、深い深い悲しみに濡れていた。
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