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※マルコのタトゥーが首に掘られていた時の話です。





マルコの後ろ姿を眺めていて、ふとある衝動にかられた。

風呂上がりで裸の上半身を、腰から程よく筋肉のついた背中を登り、無防備な首筋へと目線を移せば、目に入る俺達のシンボル。黒く刻まれた卍の刺青は、マルコが体を動かす度にその上を汗が伝い、妙な色香を放っていた。


(噛み付きてぇ…)


動物の本能というか、男の本能というか。首なんて急所にマークを掘るなんて、そこを狙ってくださいと言ってるようなもんだ。切り付けるにしても、情事の際印を残すにしても、とにかくそこは調度いい場所だった。


「何じろじろ見てんだい」
「ん?なんでもないなんでもない」


俺の視線に気づいたマルコが振り返って眉間に皺を寄せた。今の数秒で機嫌を損ねたわけではないと思うが、今夜のことを考えると少しの油断も許されないので、適当に笑顔を作って両手をひらひらと振っておいた。

ふと、マルコが椅子にかけてあった黒いシャツを手に取って俺の隣に腰を下ろす。大の男二人分の体重を支えたベッドがぎしりと沈み、嗅ぎ慣れたシャンプーの香りが鼻を掠めた。
ちらりと隣に目を移せば、マルコはすぐ手の届く距離にいる。シャツに滑らせる長い指、俯き加減に揺れる睫毛、そして先程から触れたかったその場所。まだ二十歳の若い俺がこの誘惑に耐えられる筈がなかった。

本能のままに、シャツに通しかけの腕を掴み引き寄せる。突然のことでバランスを崩したマルコが、「うおっ」とらしくない声を上げるのも無視して、自分の腕の中にその逞しい身体をおさめた。


「放せ」
「いやだ」


状況を理解したらしいマルコが深く溜息をつく。俺はそれさえも適当に受け流しながら、刺青の入っていない方の首筋に顔を埋めて舌を這わせた。


「っ!?やめろっ、エース!」


びくんとマルコの身体が震え、嫌がるように上半身を捻らせた。本人は嫌がっているが、抵抗されれば火のつく俺は負けじとその身体を後ろから押さえ込んだ。這わせていた舌を、背中を撫でるように移動して反対側の首へもっていく。さっきから気になっていた刺青の上を一舐めしてから、やんわりと歯を立てた。


「っん、エー…ス、やめろ…!」


マルコは相変わらず暴れていたが、擽るようにつついたり甘噛みしたりしているうちに徐々に力が抜けてきたのか、解放される頃には抵抗はもはや口先だけになっていた。


「おいこら、エース。何のつもりだい」
「ん?何のって、そりゃあ、」


相変わらず背中に抱き着いたまま、一緒にベッドに倒れ込む。マルコが何も言わないのをいいことに、素早く体勢を立て直して組み敷いた。古びたスプリングが悲鳴をあげて衝撃を受け止めた。見下ろしたマルコは抵抗はしなかったものの、相変わらず不機嫌そうに眉間に皺を寄せたまま、じっと俺を見ている。そして溜息をついて目を閉じた。


「…1回だけだよい、明日も早ぇんだ」
「え、は?いいの?」
「ん」


思ってもみなかった反応に一瞬唖然としてしまう。こんなにあっさり同意が得られるなんて、珍しいこともあるもんだ。
マルコの足の間に自分の膝を割り込ませる。前のめりになってみると、淡く反応したマルコ自身を確認できた。なんだ、興奮してたんじゃないか。


「じゃあ、遠慮なくいただきます」
「…ん」


耳を赤くして頷く様子に自らの下半身も重くなる。逸る気持ちをギリギリのところで抑えながら、俺は首筋に噛み付いた。
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