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(51)

"二人きりにならないか"

橙の明かりを遮るように立ったその人から発せられたのは誘いの言葉。
珍しいこともあるものだ、と頷いたらそっと手を取られて導かれた。
音頭を取り騒ぐ仲間の声と、店員の威勢の良い挨拶をするりと抜けて、薄暗い通路を目指す。
抜け出す俺達に気付いて冷やかしにかかる仲間達もいたが、気付かぬフリをして繋いだ指先を小さく握り返した。

雑音は全て阻まれた。
それは耳と外界の境にフィルターでもあるのではないかと思うくらい、閉ざされた世界。
そのフィルターに反響した自分の心音だけが煩い位に脳に響いて、どうしようもない圧迫感に襲われる。

密室ではなくとも狭い空間で、彼の息使いは直接俺の心臓を鷲掴みにした。



ずっと手に入れることを望んでいた人が此処にいる。

今、俺のすぐ目の前に。

熱を帯びた指先がしっとりと絡まり、震えた吐息がお互いの鼻先を掠めれば

視覚も聴覚も完全に支配されて、もう何も見えない聞こえない。



少しずつ近づいてくる、漆黒の瞳まで、あと10cm。

俺は目を閉じて、冷たい壁に背中を押し付けた。





(54)

アイツは、俺のこと

好き

嫌い

好き

嫌い

「何やってるんだ?」

好…



「わああああ!ビスタ!!何見てんだよ!」
「大の男が一人で花占いか?」
「ち、違ぇよ!あっちいけ!」
「じゃあその花びらの散ったマーガレットはなんだ」
「こ、れは…!」
「ほら、最後一枚残ってるぞ?やってみろ」
「……、」



…好き



「愛しているぞ、サッチ」
「………恥ずかしいんですけど、」





(54+2)

「見ろエース、俺の勝負パンツだ!!」
「ぎゃははは!!何それ!ピンクの水玉って!」
「こないだ新調したんだ!イカしてるだろ?」
「似合ってるよ!サッチサイコー!!」



「……おい、サッチ」
「げ、ビスタ」
「あまり露出するなと言ったはずだろう?」
「う゛」
「ましてやエース相手に…。若い奴は何をしでかすかわからんだろう」
「いや、待て、あれは…!!」
「言い訳など聞かんぞ」
「違っ…、ちょ、ビスタ!」
「今晩はお仕置きだな?」
「!!昨日もヤッたじゃねぇか!」
「それとこれとは話が別だ」
「最低だ!エセ紳士!」
「なんとでも」





(51)
※若マルコと古株ビスタ


「調子はどうだ、マルコ」
「ん、ビスタか…ッゲホ、ゴホッ」
「おいおい無理するな。熱は……まだ下がらねぇか。咳も酷い。辛いな」
「平気、だ…ッ」
「平気なわけあるか。しばらく安静だと船医にも言われているだろう」
「…でも、」
「お前はこれから1番隊を纏め上げて行くんだ。これ以上隊員に心配をかけないためにも早く治すんだな」
「……」
「返事は?」
「…ん、わかったよい…」
「よし、いい子だ」


「ケホッ…、ビ、ビスタ」
「ん?」
「……あの、」
「?」
「………あ、いや、なんでもな…」
「心配しなくてもお前が眠るまで出て行きはしないさ」
「………」
「ん?どうした、違ったか?」
「いや……、ありがとよい」





(54)

「ビスタ、好きだ」

伸びた金髪が俯いた顔を隠し表情はわからない。しかし小刻みに震える肩と握られた右手から伝わる冷えきった体温は、いつも明るい彼とは思えない程弱々しく、脆かった。

「…どうした」
「っ…、」

サッチの前に片膝をついて下から顔を覗き込む。
逆光ではっきりとは見えなかったが、それでもその瞳が不安に揺れているのは感じ取れた。
どうした、何があった、怖い夢でも見たか?
問い掛ける台詞はいくらでも浮かんでくるがどうにもしっくりこない。

「サッチ、大丈夫だ」

結局行き着いた最善の策は、繋がれた右手を引き寄せその体を抱きしめることだった。

「大丈夫」

声をかければサッチの指先が俺のシャツを掴む。
あやすように背中を撫でてやればその力は徐々に強くなり、白いシャツにはくしゃりとシワができてしまった。

「…っ」
「よしよし」

覆いかぶさるように腕をまわしマントで体ごと包んでやると、それに隠れてひっそりと嗚咽を漏らす。
それが、普段は強気で気丈に振る舞いたがる彼の弱音の吐き出し方だった。





(54)

「ん、ちょ、ビスタ」
「…ん?」
「ん?じゃねぇよ、ここじゃ駄目だって…」
「誰もこんな古びた倉庫になんて来ねぇだろ」
「そう、かもしれねぇけど…っふ、ぅ」
「じゃあ問題ない」
「も、そうじゃなくて…!」
「?」
「お前の、ベッドがいいっつってんだ…!!」
「………」



「うわぁっ!?何すんだ!降ろせ!!」
「誘っておいてその言い方はないだろう」
「っ、」
「悪いが今日は優しくできんぞ。煽りすぎなんだ、お前は」
「くそっ…!このエロ親父!」
「ハハ、なんとでも」
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