main_向日葵荘物語 | ナノ
そういえばあの不自然にリフォームされた豪華風呂だけど、やっぱり跡部の仕業だったらしい。古くてあまりにも使いにくいとジローが訴えるや否や跡部が偵察に来て、次の日にはもう全ての部屋の風呂場があんな状態になっていたんだとか。さすがというかなんというか。昔からこの派手好きと行動力には驚かされるものがある。

そんな話を聞いて、俺も跡部の前で冗談半分で冷蔵庫とテレビがほしいなーなんて言ってみた。あわよくば、というか、本当にふざけて言っただけだった。

だから今、家電量販店のように自室の前に電化製品が並ぶ光景が、夢なのか現実なのかわからない。ドアの前から階段側に向かって、冷蔵庫、洗濯機、テレビ、エアコン、電子レンジ、DVDプレーヤー。どれも最新式だけどきちんと独り暮らし用の大きさだ。


「あのーすみません、サインお願いします」


運んできたらしい電気屋さんが何かの書類とペンを俺に差し出してくる。流されるままにそれを受け取り中を読むと、全く覚えのない整った文字で俺の住所と名前がしっかりと書かれていた。
一体どうしてこんなことになってるんだ。誰が勝手に俺の名前でモノ買ってんだよ。てか代金とかどうなってんだよ。
聞かなきゃいけないことは山ほどあったけど、おっちゃんがサインを急かしてきたから、あわてて書類の空欄に名字を書き込んだ。そして俺が混乱しているうちに作業は終わり、あっという間に業者の人たちは帰って行った。

自室に戻り中を見渡せば、殺風景だったキッチンには初日とは見違えるほど物が増え、古い家屋に似合わないピカピカの家電たちが妙な存在感を放ちながら部屋のあちこちに居座っていた。どうやら本当に全部俺のものになってしまったらしい。嘘みたいだ。

ブブブ、と携帯電話が震えた。メールだ。


From:跡部景吾
Sub:お前の要望通り
本文:生活に必要な家電を揃えておいた。
俺様からのプレゼントだ。ありがたく受け取りな。


「…あの野郎」


続けざまに鳴った電話の呼び出し音に、俺は急いで通話ボタンを打した。



(いい加減にしろよ馬鹿じゃねえの嬉しいだろありがとう)
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