main_向日葵荘物語 | ナノ
亮の部屋に行ったら思わぬ先客がいて俺は驚きのあまり吹き出してしまった。ベッドの上で足を組んで座っているアッシュブラウンの髪の男は、俺を見るなり片眉をあげてハン、と鼻で笑いやがった。


「変わってねぇなぁ、お前」
「そういうおまえもな」


柄物の派手なシャツに、高価そうな革のパンツ。ゴージャスな雰囲気、偉そうな態度。極めつけは右目の下の黒子。忘れるはずもない。とても良く知っている顔だ。

この男、跡部景吾は中学時代の友達だった。イギリスからの帰国子女だかなんだかで中1の時にやってきて、名実ともに学園の頂点に立った男だ。容姿もよければ勉強も運動もできる、教師からは信頼されていて人望も厚く、おまけに大金持ちのセレブ様。少々王様気取りな性格を除けば、限りなく完璧に近い男だった。「だった」と過去形にしているのは、中学卒業以来ぱったりと姿を消し連絡一つよこさないこの男への不満と不信感からだ。


「なんでお前が亮ん家にいんだよ」
「いちゃ悪いのか、アーン?」


もとから仲良しこよし、というわけではない。むしろ睨みあいなんてしょっちゅうしていた仲だ。だから久しぶりの再会だっていうのに挨拶もしないその態度に俺はカチンと来て、ふんぞり返る跡部にぐっと詰め寄った。


「おいおいやめろよ、相変わらずだなお前ら」


見兼ねた亮が間に入る。体を引き離されてしまい、俺は仕方なく床に腰を下ろした。ベッドの上から跡部が見下ろしてくるのがなんだかやっぱりムカついた。


「岳人、跡部を紹介しとくぜ」
「いやいや、知ってるし」
「向日葵荘のオーナーだぞ」
「知ってるっての、オーナーの跡部だろ。…ん?オーナー!?」
「遅ぇよ、バーカ」


驚きのあまり青いカーペットの上を後ずさる。
は、なんだって?アパートのオーナー?つまりは経営者ってこと?聞いてないぞ、そんなこと。


「お前が来る前に大家さんが亡くなっちまってさ。跡部がこの物件買い取ってくれたんだ」
「はぁあ?買い取るって、そんな簡単なモンなのかよ?」


安月給で給料日前にはひぃひぃ言ってる俺には想像もつかない。ボロとはいえ、ハタチやそこらで物件丸ごと買い取るってどんだけ金持ちなんだよこいつ。


「アン?俺様を誰だと思ってんだテメェ。跡部財閥の社長だぞ」


……そうだった忘れてたこういうやつだったよなこいつって昔から!てか社長かよ!知らない間に随分出世したなおい!


「出世して悪かったな」
「げっ」


声に出てしまっていたらしい。慌てて両手で口元を塞いだ。


「まぁ、この向日葵荘に住んでいる限りお前は俺の支配下ということだ」
「いやいや意味わかんねぇから」


支配下ってなんだよ。お前に支配される気なんざさらさらねぇよ。
偉そうにふんぞり返る跡部を横目に、俺は大げさな動作で溜息をついた。昔から変わっていないのはけっこうだけど、この発想の斜め上を行く俺様発言くらいは治っていてほしかった。社長の仕事をしてる時もこんな感じなんだろうか。
まぁ、ともかく俺はこいつに家賃を払えばいいということらしい。なんだか癪だけど仕方ない。住人といい大家といいこうも身内に囲まれると新生活って感じが全然しないけど、これもまた何かの巡り合わせだと思ってプラスに受け取ることにしよう。うん、なんか俺今すっげー大人なこと言った。


「とりあえず、まぁ、ヨロシクな」



(再会)

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