main_向日葵荘物語 | ナノ
今日は侑士と買い物。最近はお互い忙しくて侑士と休日が重なることがなく、こんな風に二人で遊びに行くのはかれこれ数カ月ぶりになる。俺たちは駅までの道を歩きながら、久しぶりの会話に花を咲かせていた。


「そういえばどこ行く?原宿?渋谷?」
「岳人の好きなとこでええで」
「えー、今日はお前の服買うんだから侑士が決めろよ」
「せやかてよぉわからんもん」
「あのなぁ…」


今から買い物に行くというのに、侑士はまるでファッションには興味がないとでもいうように着ているカーキのコートの袷の部分をぺらりと捲ってみせた。大きな黒いボタンがとれかかっていて、俺はついついまたかと頭を抱えた。

侑士はスタイルは良いし顔も整ってるクセに、びっくりするほど、そりゃあもう一緒に歩くこっちが恥ずかしくなるくらいダサい。本人は毎日研究室にこもりっぱなしだからお洒落をしても意味がないって主張してるけど、それにしても、その泣きたくなるほどのセンスはどうにかしてほしい。今日だって色褪せたコートの下はこれまた使い古したような黒のパンツに変な模様のシャツ。極めつけはコートと同じ色のチューリップ帽。いったいどうしたらそんなコーディネートになるのか問いただしたいくらいだ。
そういうわけで、今日のショッピングは侑士の私服探しが中心。このオシャレ番長岳人様が徹底的にこのダサ男をただのイケメンにしてやる!


「さよか。ほならこれで俺も明日からモテモテやな」
「お前がそれを言うかよ。ファンクラブがあるのはどこのどいつだっての」
「はは、がっくんおもろいなぁ」
「うっせ!」


頭上からニヤニヤ笑う侑士を叩こうと手を伸ばしたけどひょいっと簡単によけられた。
くそくそ、ちょっと背が高くてかっこいいからっていい気になってんじゃねーぞ!

ひとまず俺がいつも買い物をする街に出て、侑士に似合いそうな雰囲気のショップを探す。柄物よりはシンプル、カラフルよりはモノトーン、ルーズよりはタイト。侑士に似合いそうなファッションをなんとなく思い描く。ショーウインドーに並ぶ服を眺めながらふらふらして、イメージ通りの店を見つけると中に入った。


「おっ、これいいじゃん」
「こういうズボンなら持っとるで。今履いとるやつやけど」
「それもうボロボロじゃん!それに2本持ってても黒なら使いやすいからいいだろ」
「さよかぁ」


試着したのは細身でシンプルな黒いパンツ。裾を切る必要もなく(俺は切ったり折ったりしなきゃ履けないから正直羨ましい)、サイズもちょうどよかったし、何より似合っていたから即決した。そのあとも何着か選んで着せてみたけど、侑士は俺の選ぶ服に特に文句も言わず、まぁ岳人が似合うとるって言うんやからそうなんやろ、とあっさりと購入を決断してくれた。

そんなこんなで結局買ったのはパンツ2本とデザインシャツ、シンプルなジャケットに、革の靴、薄手のストール。あとは侑士が勝手に選んだ変な柄のTシャツと学校用らしい斜め掛けの鞄。財布の中身を心配するくらいの買い物をしたわけだけど、流石というか、侑士持ってきた諭吉さんは最後まで何枚か余っていた。(この金持ちめ!)
俺が選んだ服はいくつか店員さんに頼んで値札をとってもらって、すぐに侑士に着替えさせた。あんなダサい格好でこれ以上一緒に街を歩くのは俺だってごめんだ。





「それにしても、見違えるよな」


上から下まで完全に着替えを済ませた侑士は別人かと疑ってしまうほどの変貌を遂げていた。こんなの口を開かなければ本当にただのイケメンだ。普段は趣味の悪く見える丸眼鏡も今はお洒落小物の一つに見えるし、ボサボサの黒髪だってそういうヘアスタイルに見えてしまう。改めてこの男のポテンシャルの高さを思い知らされた。


「ってかここまで変えた俺もすごくねぇ?」
「はは、せやなぁ。すごいすごい」
「うっわ、もっと何か感想ねーのかよ」


……まぁでも、どんなに見た目が変わっても侑士は侑士なわけで。さして興味なさそうな淡白な態度には正直ちょっとだけがっかりした。なんとなく予測していた反応だけど、なんていうかもう少し喜ぶとかほめてくれるとかあってもいいんじゃねぇの?


「ほーんと、なんでそんなに関心がないんだろうな。もったいねー」


真新しいパンツのポケットに両手を突っ込んで前を歩く侑士の腿を軽く蹴って横に並ぶ。侑士は俺のこのもやもやした心の内なんて知る由もなく、次はどこ行こかーなんて呑気にぼやいていた。


「せやけど岳人には感謝しとるで?おおきにな」


侑士が突然足を止めた。そしてぽん、と頭に手を置かれてぐしゃぐしゃにかき回される。
なんだよお前、ちゃんとわかってんだったら先に言え!ワンテンポ遅らせてお礼とか不意打ちか!ちょっとびっくりしたぞこのやろー。


「ちょ、やめろって、お礼とか求めてねぇよ」
「そんなふてくされんといて。岳人に服揃えてもろて、俺めっちゃ嬉しいんやから」
「っ、」


普段ポーカーフェイスを決め込んでいる侑士のたまの笑顔の威力はすごい。俺は断じてホモなんかじゃないけど、不覚にもちょっとドキッとしてしまった。この超絶スマートスマイルにそこいらの女子はやられて落ちていくんだろうな。


「…っ、別に!このままじゃお前がダサすぎてかわいそうだったからやってやっただけなんだからな!」
「はいはい、ありがとさん」


ああ、俺ってなんて不器用なんだ。



(ツンデレーション)

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