main_向日葵荘物語 | ナノ
次の日。夜遅くに帰宅した俺を待っていたのは、にこやかな鳳と昨日よりずいぶんすっきりした顔の亮だった。


「向日さん、お疲れ様です!」
「お疲れー。昨日は急に悪かったな」
「いえいえ、とんでもないです。俺も久しぶりにお二人にあえて嬉しいですよ」


鳳は相変わらず人のよさそうな笑みを浮かべてありがとうございましたと頭を下げた。亮はというと、最初こそ清々しい装いだったものの、いざ顔を合わせると気まずいのか何なのか、目線を宙に泳がせてまっすぐに俺の方を見ようとしなかった。


「で、どうだったんだ?」


仕方がないからこっちから声をかけてみる。隣で温かく見守っていた鳳が眉を下げて苦笑していた。


「…ああ、ちゃんと話してきたぜ。ありがとな、岳人」
「おお、よかったじゃん。これで第一関門突破って感じだな!」
「まぁな」


助かったよ、と亮は照れ臭そうに頭を掻いた。



今日の昼、俺の言った通り鳳は亮を連れて氷帝学園中等部に顔を出した。亮が榊先生と会うのはほぼ7年ぶりになるけど、見た目も雰囲気も当時と全く変わってなくて、亮のこともしっかりと覚えてくださっていたそうだ。もちろん亮との仲が険悪だったことも、そんな彼が今秋教育実習生として学園を訪れることも分かっていたらしい。(むしろ亮がやってくると知っていたから担当教諭に名乗り出たんだとか。)
実際に先生を前にした亮は緊張からなかなか話を切り出すこと出来なかったらしいんだけど、鳳の協力のおかげでなんとか本題にたどり着いて、きちんと“仲直り”することができたんだそうだ。鳳が優秀な後輩でよかった、本当に。



世間話もそこそこに、時計を見ると既に日付が変わってから30分が経っていた。夜の冷たい風が廊下を通り過ぎて、寒さに身体を震わせた鳳がくしゅんとくしゃみをした。


「そろそろ中に入るか…。岳人、さっきまで長太郎と飲んでたんだけど、今からお前もどうだ?」
「あー悪ィ、明日朝早いんだわ。今日は遠慮しとく」


久しぶりに会った後輩と酒盛りか。いいなぁ。この感じだと鳳は泊っていくんだろう。参加したいのは山々なんだけど、生憎俺は明日も朝から仕事だ。

俺は二人におやすみと告げると、自分の部屋に戻ろうと踵を返した。後ろから鳳が「おやすみなさい」と手を振って、亮の部屋に入っていくのが見えた。


「あ、岳人」
「?」
「親父さんと喧嘩して出てきたんだろ?お前も早く話つけといた方がいいぜ」
「え?あ、あー…うん」


部屋に入るぎりぎりのところで亮に呼びとめられて、思わず言葉を失った。今まで親父のことは触れないようにしてきただけに、何と返したらいいかわからなくて、曖昧な返事しかできなかった。

よくよく考えてみたら、今まで亮に言ってきたことは全部俺自身にも言えることだった。誰かに言うのはとても簡単だけど、いざ自分でそれを実行しようとなると本当に難しいかもしれない。


「また今度、考えるっつーの…」


核心を突かれてもやもやとする胸を誤魔化すように、俺は小さく悪態を吐いた。



(今はまだ“ごめんなさい”が見つからない)

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