安アパートの簡素な部屋。カーテンの隙間から降り注ぐ光で、矢田は目が覚めた。

「んー……!」

大きく伸びをして、いつものように着替えて――着替えようとして服を脱いで――――……なんか違う。寝ぼけ眼にも、違和感を感じた。なんの気なしに財布でも探すように体を触ると、なんか……なんか、やわらかい。なんか、鎌本程でないにせよ胸が膨らんでいる。なんだ、なんだこれ……。

「……なんだよ! これ!!」

朝早くから黄色い声が響き渡った。






ノットレディ!





「草薙さぁああん!!」

ドアを蹴破らんとする勢いでBAR HOMRAに飛び込んできた声は、若干ハスキーなものの明らかに女のそれだ。
ひと通り身支度はした。鏡は見た。トイレにもいった。間違いない、完全に女の体になっていた。

「朝っぱらからそない騒いで……、どないしたねん」

グラスを磨く草薙は矢田には一瞥もくれず、なんやいつもと声ちゃうし風邪ならはよ寝ぇや、なんて、見当はずれなアドバイスを贈った。
カウンターまで行くとやっとこっち見た。

「あっ、えっと……。俺もよくわかんないんですけど朝起きたらこんな風に……」
「はい?」

サングラスの奥の目が細められる。上から下までじっくり眺められると、無性にむず痒くなった。なんか、こう、落ち着かない。

「っ……」
「矢田ちゃん……君、そんな男の娘に興――」
「違います! 何言おうとしてるかわかりませんけど多分違います!」

草薙のボケのおかげで一周回って逆に冷静になってきた。相変わらず声は高いし、それに、草薙と会って気付いたが、もとより低い身長がさらに低くなっているらしい。推定155cm。
事の顛末(といっても朝起きて異変に気づいただけだが)を話すと、草薙は難しそうに首を傾けた。

「はぁー、不思議なこともあるもんやねぇ」
「はい、炎も使えねぇし。どうしたら戻れるんすかね……」
「それがストレインの仕業なんやったら、話も早いねんけどな」

ドアの開く音がして鎌本他、吠舞羅のメンバーが入ってくる。姿を認めると途端に心臓が高鳴り、口が渇いた。毎日のように見ている筈なのに。

「あ、矢田さんチーッス!」

矢田は曖昧に返事をし、緊張を隠すようにそろりとアンナの元へ逃げ込んだ。
(なんか、こいつら。いつもと違う……)

「あー、みんな。実は今朝から矢田ちゃんが……」
「どーしたんすか」

珍しく口を濁す草薙に一同の視線は矢田へと注がれ、益々胸は高鳴り、息も上がる。
こっちみんな。人の心を読める人間は吠舞羅の中に一人だけだし、その一人は矢田に盾にされている。このままでは埒が明かないと、仕方なしに口を開いた。

「えーっ、と朝起きたら、女になってて……。」
「心当たりもないみたいやし。どーしたもんか話しとったんや」

草薙が補足を入れたが、案の定一同ポカンとしてる。
沈黙を破ったのは唐突に現れた十束だった。

「一旦帰るか、青服に相談したほうがいいんじゃないかな? 矢田ってば、性別が変わっても異性が怖いみたいだし」
「十束さん!」

それは意識外からの驚きではなく、制止だった。体がおかしくなっても、あくまで自分は男だ。吠舞羅の切り込み隊長、八田美咲だ。男を恐れてなにがNO.3か。
弁明をと開いた口は、まるで酸素を求める魚のようだ。

「ミサキ……、手冷たい。無理しちゃダメ」













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