一つのもんだい


これは、昔の話。ぼくが子供だった頃。
一人の少年を助けた事から始まった。

13歳の夏。この国は未だに戦争を続けていた。潜在資源は底を尽き、ノンレスソーシャリティはほぼ完成していた。自然エネルギーの利用技術を確立した先進諸国こそ悠々自適な生活を送れているものの、後進国との格差は広がるばかり。その結果、後進国のそれもごく一部の過激派は、生活の苦しさをぼくらへの憎しみに変えることで気を晴らすのか、テロが急増した。
広島・長崎を繰り返すなと声高に謳った慈善活動家も、福島原発を忘れるなと怒鳴りちらした被災者もどういったわけか、「後進国へ秩序を与える」の名のもとに行われる虐殺を黙認していた。

大抵の兵器は無人化したものの、人間が直接銃を持ち、ナイフを振り回す戦場はあった。ただ、ぼくはそういった場所を見たこともないしし、行く予定もなかった。
というのも、戦争はもはや国同士が戦うのではなく、民間会社(主に電子機器を取り扱う会社の系列)に委託するのが常であったからだ。そういった所に就職でもしない限り、ぼくらは荒廃した土地すら目にすることなく一生を終える。

「ねえ君、生きてる」

夏休み、友達と約束した公園へ向かう途中に人が倒れていた。紺の頭にえんじの襤褸。国内でこんな格好をしている人なんてもう絶滅したものとばかり。
身なりを見るに放っておくわけにも、

「……いかないよなあ」

仕方ないと腕時計型の端末からARを呼び出して、行けないとメッセージを送った。正直、本日の遊び仲間はあまり得意ではない。賑やかすぎるのだ。


* * *


幸いにも彼女は軽かったうえ、背丈もほとんど一緒だったから、存外楽に運べた。唯一の難といえば、マンションの管理人の目だった。
建築物と同様、管理人も多様化したようで、うちには陽気なおばさん夫婦がいた。見つかる度に三十分は捕まるので、密かにぼくらのあいだでは「スライム」と呼ばれている。
何かしらの問題があってもリモートサポートやらAIやらに尋ねればいいので、管理人なんてわざわざ現場に来なくてもよいのだが。

ともあれ彼女は今ソファで眠っている。
空調とは思えない柔らかい風と、ホログラムの貼られた壁が快適な空間を演出する。両親がいない今はいいものの、いつまでもこのままという訳にはいかない。

「警察か救急か……」

彼女はマスクとマフラーに暖かそうなカーディガン、カーゴパンツにブーツと、夏とは思えない格好をしていた。
軍人かな。だとすればここまで逃げて来たって事だろうか。なら警察も救急もまずいよなあ。
持ち物を漁るか、いや流石に初対面ではと悩んでいたところ、ARがメッセージを受信した。

曰く、なんで来れねえんだよ燎!

ちょっと拾い物してねと返すと、すぐに返信が来た。
『拾い物? 捨ててこいよ! つーかお前いねぇと負けるからマジで』
『なんか勝負でもしたの』
『梓が絡まれたって言っただろww』

梓って誰だっけ。ああ、同級生か。
早玖(さく)好きなんだよな確か。

『え、それで俺行くの? お前梓好きなんだろ、頑張れ』
『ほんと頼むって』
『はいはい』

売り言葉に買い言葉で、承諾してしまった。ちらりと少女を見る。行ってさっさと終わらせよう。念のため、メモを残した。


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