星が溶けたら夜も明るい


いつもは来る前に必ず連絡をくれる竜胆くんが、珍しく、というか初めてなんの連絡もなしにうちの玄関チャイムを鳴らした。モニターでその姿を確認して慌てて玄関へ走りドアを開けると、そこには全身から疲れたオーラを出す竜胆くんがいた。

「どうしたの?」
「…別になんとなく」

小さな声には明らかに疲れの色が滲んでいて、絶対になんとなくではないだろうけどそういうことにしておいてあげようと思う。

「お疲れ様」
「ん、ありがと」

部屋に入るとすぐに抱きつくようにして引っ付いてきた竜胆くんの背中に腕を回し、少しだけ背伸びをして頭を撫でた。されるがままの竜胆くんに、これはいつもはわたしを甘やかしてばかりいる彼を甘やかすチャンスなのでは?と思うと疲れている竜胆くんには申し訳ないが思わず口元が緩んでしまう。


「夕飯どうする?食べる?」

ソファに脱ぎ捨てられた高そうなスーツのジャケットとベストをハンガーにかけながら尋ねた。片手でネクタイを緩める仕草には定番だけどやっぱりキュンとしてしまう。正直今すぐその胸に抱きついて甘えてしまいたいけどここは我慢。だって今日はわたしが竜胆くんを甘やかすと決めたんだから。

「あれがいい、あの安っぽい雑炊」
「失礼だなー」

キッチンの戸棚を漁り、竜胆くんご所望の安っぽい雑炊の素と土鍋を取り出した。冷蔵庫に入っていたご飯をチンして水と雑炊の素と一緒にしばらくぐつぐつと煮てから溶き卵を入れて蓋をする。鍋敷きと一緒に竜胆くんが待つテーブルに運び「熱いから気をつけてね」と蓋を開けると湯気と一緒に食欲をそそる香りがふわっと立ち上った。

「いただきます」
「どうぞ」

竜胆くんの、ちゃんと手を合わせていただきます、をするところが好き。お箸の持ち方とかご飯の食べ方とか、何気ない所作が綺麗なところも好き。

「はぁ、この安っぽい味マジでクセになるわ」
「だから失礼だって」

竜胆くんがさっきから安っぽいと言い続けている雑炊は簡単に作れるからわたしがよく食べているもので、そんなに言うなら食べなきゃいいのにと思うけど「なんかこの味ホッとするわ」なんて言って小さく笑った竜胆くんにわたしの心臓がまたきゅん、と音を立てる。もー…その顔ずるいんだってば。


食べ始める前と同じく、きちんと手を合わせて「ごちそうさま」と言った竜胆くんに、部屋着とバスタオルを渡して「お風呂沸いてるよ」と伝える。冗談で「背中流してあげようか?」と言ってみると「それだけで終われなくなるからベッドで待ってろよ」と額に軽く口付けられてしまった。たまらず竜胆くんにぎゅうっと抱きつくと「照れてんの?」と笑いながら抱きしめ返された。あれ、結局わたしが甘やかされてない?違う違う、今日はわたしが甘やかすんだから。


「髪乾かしてあげる」

お風呂上がりの竜胆くんにそう言うと「んー、じゃあ頼むわ」とソファに座った竜胆くんの後ろに立ち、すごい色なのになぜか痛んでいないサラサラの髪に指を通してドライヤーの風を当てた。よっぽど疲れているのか、竜胆くんは目を瞑っていてされるがままだ。このまま寝かせてあげたいとは思うけどそれはそれでちょっと残念だなぁって思ってしまう気持ちもまぁ、あったりする。さすがにソファで寝られるのは困るので、髪を乾かし終わると軽く肩を揺すり「終わったよ」と声をかける。

りんちゃんおいで、とベッドの上で腕を広げると「ガキ扱いすんな」とムスッとした声を出しつつも素直にわたしの腕の中に収まった。出来るだけ優しく頭を撫でれば竜胆くんは「なんか、今日は疲れた…」とぽつりと溢した。いつもわたしの前では完璧な竜胆くんが、素直に疲れたと言葉にすることは滅多にない。わたしの胸に顔を埋めて額をぐりぐりと押しつける竜胆くんがたまらなく可愛くて、その頬を両手で包んでそっと唇を重ねた。

「いつも頑張ってて偉いね」
「偉くねぇよ…」
「偉いよ、竜胆くんは世界一偉い」
「お前、それ俺の仕事分かってて言ってんの」
「それとこれとは別」

やっていることは悪いことかもしれないけれど、頑張ってる竜胆くんは偉いの。そう言えば「バカだろ」って呆れたように笑われた。竜胆くんの頬をふにふにと触る。「…やめろ」「んーん、やめない」もう一度竜胆くんの顔を引き寄せて、今度は触れるだけじゃない口付けをする。いつも竜胆くんがわたしを甘やかすときにしてくれる、甘い甘いキス。ちゅ、と音を鳴らして唇を離した。

「わたしにしてほしいこととかない?」

どうしたら竜胆くん癒される?と聞くと、竜胆くんの手がわたしの服の中に侵入してきた。

「ナマエ抱いたら癒されるかも」
「えー…それ逆に疲れない?」
「あの疲労感がいいんだろ」
「今のちょっと変態っぽいよ」

クスクスと笑うわたしの唇を、今度は竜胆くんが奪う。わたしは甘えるように竜胆くんの首に腕を回した。あーあ、結局わたしが甘えちゃったなぁ。

「ナマエがさ」
「ん?」
「俺に甘えたいの必死に我慢して、俺のことどうにか甘やかそうとしてんの可愛いっつーか…癒されたわ」
「…分かってたの?」
「分かるわ」

めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど、と言うとそういうとこが可愛いと竜胆くんは更にわたしを甘やかした。

竜胆くんだってたまには誰かに甘えたっていいんだよ。できればそれがお兄さんじゃなくて毎回わたしだと嬉しいんだけどな。

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