不意打ちにキス | ナノ
暫く走って、観覧車の列が空いている事に気付いて並んだ。終始沈黙が続いたまま観覧車に乗って、ゆっくりと上に上がって行く。きっと伊藤は怒ってるだろうな。


「…お前何考えてんだよ」

「何って、睫毛がついてるって言われたから取ってもらおうと思っただけだもん」

「……じゃあ俺がその睫毛取る」


不審そうな顔をした後、柚子沙は信じて目を瞑ってしまった。本当に疑うってことを知らないのだろうか。無防備な柚子沙に腹が立ってしまって肩を掴めば、驚いて目を開けた柚子沙が俺の名前を呼ぶ。その口を塞ぐようにキスをした。
最低だって事は分かってる。けど、何にでも鈍感な柚子沙にイラついて、それなら嫌われてしまった方がマシだ。とか変な事を考えてしまっていて、それが行動に出たんだろう。
お疲れさまです、とスタッフの人が自分たちの扉を開けて、柚子沙から手を離して降りた。続いて柚子沙も降りてきている。


「…悪い、俺帰る」

「え、太一…!」


柚子沙の声も聞かずに、今度は出口のゲートへと走って行った。少し寂しそうな表情をした柚子沙が頭の中にチラついて、それを振り払うように走っていた。
着信履歴に溜まる、柚子沙の名前とか、伊藤の名前とか。もうそんな事を気にしていられる状況じゃなかった。


本当は恐かった
(自分を好きじゃないと)(言われるのが、)

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