不意打ちにキス | ナノ
朝起きた時も、制服を着た時も、部屋を出る時も何度も昨日柚子沙に選んでもらった服があることを、汚れがないことを確認して学校に来た。心配性だな、俺。でも、柚子沙に選んでもらったっていうことがあるからかもしれない。はあ、と一つ小さな溜息を零して教室に入った。


夕方6時。日も暮れ始めた時が家に着いた時だった。携帯を触りながら自分が帰宅したことを家の中に告げる。そのまま二階の自分の部屋へと向かった。


「・・・は?」


部屋の中に入ると、掛けてあった服がなくなっていて部屋中を探したけど何処にもなかった。バタバタと下に降りれば、うるさいわよと母さんが言った。妹もソファに座っている。俺の部屋に掛けてあった服、知りませんか?と焦る気持ちを抑えて、言葉に気をつけながら一文字ずつ丁寧に発する。


「ああ、あれなら捨てたわ。あんな安そうな服を着てるなんて恥ずかしいでしょ?」

「・・・んで、」

「なに?服が欲しいなら、また買ってあげるわよ」


なんで、勝手に。服が欲しいわけじゃない。腹の底でぐつぐつと煮えるそれは、きっと俺の怒りで。それでも、母さんに反発してしまえば、父さんに怒られるのは目に見えている。下唇を噛みしめて、そうですか、と精一杯出した言葉を言い自分の部屋へど戻った。
握りしめていた手を枕に何度も叩き付けた。この怒りを、どこにやったらいいんだ。俺は、柚子沙に何て言えばいいんだ。悔し涙というのか、じわじわと熱くなる目頭を袖で拭って枕に顔を押し付けてそのまま目を閉じた。



怒りの行方が分からずに
(目を閉じれば)(柚子沙の笑う顔と、)(悲しそうな顔)

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