マドレーヌと秘密 | ナノ
ほら、早く。と悠太に急かされて帽子と鞄を持ってお母さんに行ってきますと伝えて家を出た。ヒュー、と寒そうな音が響く。手袋をしていない手をポケットに入れると、暖かかった。みんなと合流して、少しだけ騒がしくなっていく。きっと、みんなロコに会いに来たんだと思う。
少しだけドキドキとして来た胸を押さえて、大丈夫・・・と深呼吸をする。・・・というか、俺はロコと会って何を話そう?突然キスしてすみません?ロコが好きらしいです?・・・なんか、また怒られそう。


「ゆっきー変じゃない?」

「・・・やだな。千鶴には負けるよ」

「なにおう!?俺のどこが変だっていうんだ!」


前髪か!と言った千鶴に変だって分かってるじゃないですかと言ったら余計にうるさくなった。ずっとキーキー言うおサルさんを無視していたらいつの間にか現場についていた。前に来た時よりも人が多くて驚いた。ロコはやっぱり人気なんだってことが分かった。ていうか全然見えないじゃん。一生懸命見ようとする千鶴を放っておいて、悠太にちょっとジュース買ってくるって伝えてその場を離れた。

ガコン、と音が鳴ってボトルを手に取る。そのまま踵を返して悠太たちのところに戻ろうとしたら人影を見つけた。その影は見たことあるように見えて思わず一歩ずつ近づいて行くと、俺の思った通り影の正体はロコだった。


「・・・こんにちは」

「・・・ゆ、うきくん」


俺が声を掛ければ驚いた顔をして見て、すぐに立ち上がって逃げようとするロコ。だからすぐに手を掴んで引き留めた。どうして逃げるんですか、って俺が言うと被せるように祐希くんが変なことするから、と言った。その言葉を聞いて、ごめんなさい、と素直に口から出ていった謝罪の言葉。俺のいる方とは反対を向くロコをこっちにこっち見て下さい、と言えばゆっくりと振り向いてくれた。
その時の顔は、俺がロコにキスした時のような寂しそうな悲しそうな顔をしていて、胸の奥がズキと痛くなる。


「それは、どういう意味のごめんなさいなの?忘れてください?」

「・・・違います」

「じゃあ何なの」

「傷つけて、ごめんなさい」


頭を下げて、俺がそう言うとロコは小さな声で無責任だよ、と言った。だから、無責任ってどういうことですか、と顔を上げた俺の目に映ったのは大きな瞳からポロポロと大粒の涙を零すロコがいた。


言ってみたものの
(また傷つけてしまった、)(とチクリと痛む胸を)(ぎゅうっと握りしめて)

0908
あと少しで終わります。