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刀剣乱舞の学パロ

相変わらず竹刀のぶつかる音よりも女子の歓声が多く聞こえる剣道場に、眉間に皺が寄る。
たまたま玄関先で休憩をしていたらしい獅子王と目が合えば笑って手を振ってきた。けど、照れ臭くてフイッと視線を逸らしてしまって。内心後悔をしつつも、生まれた時からずっと一緒だった獅子王ならきっとわかってくれるだろう、なんて甘えも一つ。
まあ、どうせ会うし…。歓声でうるさい剣道場を背に、ゆったりと帰り道を一人で歩いた。
家に帰れば、普段よりも楽しそうなお母さんの声が私を出迎えてくれた。けれど、隣を見ては目を丸くして「あら?獅子王くんは?」と。

「まだ部活中だよ」
「名前ちゃんは?」
「私は帰宅部だし」

その言葉に今度は大声を上げ非難の嵐。どうして剣道部に入らなかったの。なんて、何にもしらないくせに言ってのけるお母さんに適当な返事をしながら二階への階段を駆け上がった。
どうして入らなかったのかなんて、あんな見せ物みたいな場所になんていたくない。剣道部員はみんな本気で取り組んでることなんてよくわかってる。だって、目に見えてわかるほどモテているのに一軍は誰一人として色恋沙汰の噂がない。それに、獅子王から聞く話でも一切そういったことはないし、実際に私が話したことのある剣道部員は腹の立つ奴はいても、浮ついてるような人はいなかった。
だからだ。そんな中に私一人が入って変わらないことなんてわかっているけど、ただ一つ変わることがある。それはファンの目だ。そんなことで虐めの標的にされるなんてまっぴらごめんだ。
はあ、と大きな溜息をついたすぐ後に携帯に着信が入った。それは、お母さんが待ち望んでいた獅子王から。「今から帰る準備するから!」と一文。それに了解、と一言送り着替えた格好で夕食の準備をするお母さんの手伝いへ向かう。
今日は、獅子王の両親の帰りが遅い日。二週間に一度ほどあるその日は、獅子王は隣の私の家へ夕飯を食べに来ていた。それでなくても、普段から出入りが多いせいでまるで家が二つあるみたい。
ガチャ、と前触れもなく開いた玄関に向かえば、当たり前のように立つ獅子王。その姿は汗だくで、部活を頑張ったという証拠だった。

「先シャワー浴びたら?」
「おう、そうしよっかな〜」
「あ、タオルの位置わかるよね?」
「おう!」

まるで家族のようなやりとり。だけど、それが少し楽しかったりもした。唯一と言ってもおかしくないぐらい、気軽に話せる存在の獅子王。
女みたいな細見の背中を見送って、お母さんに獅子王のことを伝えれば嬉しそうにはしゃいで。
お父さん、早く帰って来ないと夕飯冷めちゃうよ。

0618