とろけるシュガーシロップ | ナノ
弟たちのドタドタと走ってくる音と俺を呼ぶ声に目を覚ました。随分と昔の思い出を夢見ていた…ドキドキとする胸に「俺、何年片想いすんだよぃ…」なんて、誰にも聞こえないように呟いた。





「ブンちゃん!急いで、もうみんな集まってるよ!」

今日は氷帝との練習試合の日だっていうのに寝坊して、遅刻ギリギリについた。ニッコリ笑う幸村君に背筋が凍ったけど、氷帝コートで元気よく手を振るジロ君に少し安心した。

ジロ君との試合が始まってすぐに、ジロ君は由莉を見て「マジマジ可愛いね!」とテンション高く言った。そりゃ可愛いだろぃ、…なんて言えるわけもなくって、返事もせずにボールを打った。
結構ギリギリで俺が勝ったら、ベンチで嬉しそうに拍手する由莉にホッと胸を撫で下ろした。

「お疲れブンちゃん!」
「お疲れブンちゃん」
「仁王黙れ」
「酷いのう…俺もお疲れって言いたかっただけじゃ」

言いたかっただけっていう割には、そのニヤリ顔が気に食わねぇんだよぃ。タオルを受け取って由莉の隣りに座ったら笑顔で「頑張ったブンちゃんには新作ガムをあげましょう」とガムを差し出してくれて「サンキュ」と受け取る。
さっきまで食べていたガムを、新しいガムを包んでいたものでくるんで、今度は新作ガムを口の中に放り込んだ。
隣りでは、柳生の応援をする由莉がいて、そっと盗み見ていれば気がついたのか「どうしたの?」なんて聞かれて、由莉のこと見てた、とか言えるわけなくて「なんでもねぇ…」とコートに視線を戻す。隣にこいつがいるだけで気になるとか、本当バカみてぇだろぃ。

練習試合は立海の勝利で、帰り際に「マジマジ悔しい!丸井君、次は勝つからね!」ってジロ君が言って「次も俺らが勝つからな」と返して握手をした。

「ねぇ丸井君!」
「なんだよぃ」
「丸井君、あの子のこと好きなの?」

ジロ君の突然の発言に膨らませていたガムが割れた。あの子、っていうジロ君が指しているのは由莉の事で、なぜそんな事がバレたのかすら分からない。一人で動揺していれば「やっぱり」と笑ったジロ君。そのまま俺の肩をポンポンっと叩いて、跡部たちのもとへと帰って行った。
俺もみんながいる所に行こうと視線を向けたら、ちょうど由莉と目が合って、笑顔で俺に手を振る由莉に心臓をうるさくしながらみんなの下へと集まった。

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