とろけるシュガーシロップ | ナノ
今日から正式にテニス部の入部が始まって、全員が自己紹介をしていく中で、やっぱり幸村君たち三人が喋る時は一気に空気が変わった。幸村君たちの存在を改めて凄いと思う中で、マネージャーの自己紹介へと変わった。去年卒業した先輩マネージャー以来、新しいマネージャーが入らなかった中でたった一人で入部したマネージャーはどんな子なのかと、先輩達も俺も気になっていた。

「マネージャーをします、えっと…あ!一年C組の大野由莉です!柳生比呂士くんの幼なじみです!お菓子を食べるのが好きです、よろしくお願いします」

最初の感想は、バカっぽいと思った。みんなは浮足立ってる感じだけど、俺はコイツがマネージャーで大丈夫なのか…と一人心配をしていた。

…けど、そんな心配は無駄だったらしくて、そいつは俺が考えたよりもバカじゃなくてテキパキと仕事をこなしていた。教えてあげる、と近づきたいが故に寄って行く先輩たちに「分かるんで大丈夫です、ありがとうございます!」って笑顔で交わして、誰にも教えられてないことを一人でさっさとしていく感じがカッコイイとも思った。





「…ってぇ、」

先輩たちからの指導として打ち合いをしていれば、俺のボレーに腹を立てた先輩が顔面にボールを打って来て、そのままぶつかった。三年と一年の握力の差を思い知らされた。重い球で、痛いというより熱かった。これ、まじでヤバイんじゃね…と片目をつぶったまま立ち上がれずにいれば、直ぐに気付いたのはマネージャーで慌てて俺の腕を肩に回して部室まで連れて行こうとしてくれた。凄く、嬉しかった。

「おい、無理だろぃ…お前一人じゃ」
「いいから…顔、腫れてる…っ!」
「…私が運びますから、由莉は急いで手当の準備を」

柳生は由莉と違って楽々と俺を連れて行ってくれて、ベンチの場所を開けて座らせてくれた。少しもせずに入って来たマネージャーは汗を掻いていて、そんなに急いでくれてたことに、胸の奥がむず痒い。
心配そうな表情で俺の顔にそっと触れたマネージャーの手にほとんど力が入っていないことなんて分かるけど、痛くて顔を歪めた。「大丈夫」と優しく笑って冷やすものをくれたコイツに、心臓がうるさくなった。何だこれ…なんて、本当は分かってるくせにバカみたいに心臓がうるさい理由を考えた。

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