とろけるシュガーシロップ | ナノ
「ブンちゃんブンちゃん」

授業の合間の休憩中にボーッとしていたら隣りの席の由莉に声を掛けられた。怠くて曖昧な返事をしながら横を向けば、ポッキーを一本俺に向けていて。何度も瞬きをしていれば、いらないの、なんて首を傾げて。別にいらないわけじゃない。いや、むしろスッゲー欲しい。…けど。
じっと由莉を見ても分かってくれる様子なんてなさそうだし、無心無心、と心の中で呟きながらパクリと由莉の手に持つポッキーをかじった。周りがうるせぇなぁ。何がきゃあきゃあだっつの。俺が叫びてぇよ。

「おいしいでしょ、新作なんだって」
「おう、うめぇよこれ」
「あ、まーくんにもあげて来よっ」

仁王を見つけるなり席を立って駆け出した。あっぶね、こける所だったじゃねーか…。危なっかしい由莉から目が離せなくて、ずっと同じ方向を見ていれば、周りできゃあきゃあ言っていた女子が話しかけて来て。大野さんと仲良いよね、付き合ってるの?なんて、テメェらに関係ないだろい。

「別に。ただの友達だけど」

一度、幸村くんに教えてもらった女子を簡単に追い払う方法を使ってにっこりと笑ってみせると、その女子はホッとしたような顔をして頬を染めて消えた。なんで関係ないやつにそんなこと聞かれなきゃならないんだよ。はあ、と大きな溜息をついて由莉と仁王がいる廊下に目を向けると、俺にしたように仁王にもポッキーを向けていて仁王がそれを食べていた。
…なんか、すっげぇムカムカする。目が離せなくなっていれば、由莉と目があって。何にも考えてない顔で笑って俺に大きな手を振る由莉に悪態をつきながら、ふいっと目を逸らした。

「えっ、ブンちゃん何で無視するの!」
「あ?悪い、気がつかなかった」
「嘘だ、目合ったもん」

仁王のところから戻って来るなり俺に文句ばっかり言いやがって。…けど、何だかそれが嬉しいとか思ってる俺って本当終わってるかもな。こんな気持ちになる自分を馬鹿にして笑ってやりたい。
いつまでもうるさい由莉に鞄の中からお菓子を取り出して、一緒に食べようぜ、と言えば、さっきまでのムッとした顔は笑顔に変わって。単純なコイツを見ながら、何だか心配になったり。変な奴に騙されたりするんじゃないのか。

「ええのう、お菓子」
「何だよ。欲しいなら欲しいって言えよ」
「…プリッ」

由莉の前の席の仁王は自分の席に着くと振り返って菓子を眺めた。いつもみたいに、よく分からない単語を言って誤魔化すから、勝手にしろい、と笑ってやればブンちゃんは話が分かるのう、と呑気に言って菓子を食った。
幸せそうに菓子を頬張る由莉に視線を戻したら、目が離せなくなって。本当においしそうに食うよなぁ。とか、可愛いなコイツ、とか。

「青春じゃのう」
「う、うるせぇよ!」

俺の心情を知っているのか否か、仁王はそんなことをぼやいて。咄嗟に大声を張り上げてしまった。ニヤリと笑った仁王を俺は見逃さず、これからどんな風に誤魔化していこうか。なんて、幸せそうに笑う由莉を余所に、余計な苦労が増えてしまって大きな溜息が出た。

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