中編 | ナノ
園児のお迎えもみんな来て、門を閉めようとすると先ほど名前ちゃんと一緒に来ていた少年が僕をじっと見ていた。てっきり一緒に帰ったものだと思ったから、少し驚いてしまって…。

「どうかしましたか?」
「あのさ、聞きたいことあんだけど」
「はい。僕でよければ」

深刻そうな、真面目な表情をした彼の胸元には高尾、と刺繍がしてあって。そういえば、涼太くんから何度か彼の名前を聞いたことがあった。高尾くんの言葉を待つも静かな時が過ぎるだけで。あの、と声を掛けようとすると同時に高尾くんもやっと話しはじめた。

「クロコ先生はさ、名前ちゃんのこと好きなわけ?」
「……え?」
「だってそうっしょ?やけに馴れ馴れしいじゃん」
「それは、涼太くんのお姉さんだから…」

高尾くんの言葉に拍子抜けしてしまった。園児の姉、しかも年下を好きになるなんて有り得ないことだし、合ってはいけないことなはず。けれど目の前の彼は僕が名前ちゃんを好きという前提で話しを進める。
そこで気がついた。ああ、きっと彼は名前ちゃんが好きなんだろう。だからこんな風に僕に突っかかってくるようなことを…。

「…もう暗くなるので帰った方がいいですよ」

むっとする高尾くんを放って門を閉めた。高尾くんがこれからどう動くだろう、なんてことは安易に想像が出来た。きっと今は帰るだろうけど、涼太くんの迎えに来る名前ちゃんに付き合うんだろう。
数年前の自分の高校時代を思い出して、少し微笑ましくなった。僕が恋をしてきたかどうかは別として、高校時代の友人たちに会いたいと思って携帯を開いて今度会いませんか、というメールを送信した。

***

「黒子の方から誘ってくるって珍しいよな」
「そうですか?でも、火神くんがオフになって良かったです」

日曜日で保育園も休み、そして火神くんの仕事もオフで丁度重なったこの日に久々にストリートバスケでもしましょう、と誘えばすぐにオーケーの返事をもらった。二人でコートに向かう途中で、嬉々とした大きな声で僕の足にしがみつく涼太くんが現れて。

「涼太くーん…えっ!く、黒子せんせ、っ?!」
「こんにちは、奇遇ですね」

いつもの制服姿とは違って、可愛らしい格好をする名前ちゃんに挨拶をした。下ではぐいぐいと僕の服を引っ張る涼太くんの目線に合わせてしゃがみ込むと、どこにいくんスか?と可愛く首を傾げて。
このお兄さんとバスケをするんですよ、と言えばキラキラと目を輝かせて自分も行く、と言い出して。そっと名前ちゃんを見上げて大丈夫か尋ねれば、大きく頭を縦に振って。
なんか、ひとつひとつの動作が可愛いなぁ、なんて思ったことは内緒。

1022