中編 | ナノ
ギリギリセーフ、と飛び込んだ教室はまだ騒がしくて、荒い息を整えながら自分の席に着くと、隣りの席の高尾がケラケラと笑いながら私を見て。

「今日はギリギリだなー、また弟?」
「そうなの。だって、たんぽぽ見つけたって…可愛いでしょ」
「ん、可愛い可愛い」

高尾の軽い返事に、何よって頬を膨らませたらツンツンと突かれて、俺も妹が小さい時そんな気持ちだったわ、と笑っていて。そんな高尾の言葉で、だから高尾はそんなに大人なんだ、と思って納得できた。妹さん、可愛い?と聞けば、当たり前だろっというように笑顔で頷いた高尾に微笑ましくなった。

「あ!あとね、今日は黒子先生と話したの」
「…あー、例の涼太の先生?」
「そう!名前ちゃんって呼んでくれたの!」

今も黒子先生を思い出すだけでも頬が熱くなって、本当に黒子先生が大好きだって自覚するほど。そんな私を面白くないという雰囲気を出す高尾に、どうしたのって声を掛けようとすれば先生が入ってきてホームルームが始まって。いつも私の話を笑って聞いてくれるのに、その時の高尾には笑顔がなくて不安になりながらも、いつの間にか黒子先生のことを思い出していて。今何してるんだろうか、先生は私のこと思い出してくれてるんだろうかとか、恋っぽいことを考えながら空を見上げた。

***

待ちに待った放課後。涼太くんのお迎えに向かおうと意気揚々として靴を履いていれば高尾も自分も行くと言い出して。高尾には関係ないことだけど、まあ涼太くんも高尾のこと気に入ってるし…。じゃあ行こうか、って二人で歩き出した。
夕日が差す道に、長い影が二つ伸びていて。他愛もない話をしながら保育園につくと外で他の園児の見送りをしていた黒子先生が気付いてくれた。

「…あれがクロコ先生?」
「そう!かっこいいでしょ!」

高尾からの返事はなくて。まあ、でも高尾がかっこいいねなんて言ってもちょっと引くかもしれないけど…。涼太くんを呼びに行ってくれていた黒子先生が戻ってきて、真っ先に涼太くんが私に飛びついて来てくれて。にこにこ笑顔で保育園でのことを話してくれて、頷いていると、ぽんっと黒子先生が私と涼太くんの頭を撫でた。

「日も暮れますし、早く帰った方がいいですよ」
「はーい!ばいばい、くろこっち!」
「はい、また明日」

ふんわりと微笑んだ黒子先生に胸をときめかせながらもお辞儀をして、涼太くんと高尾と三人で門を潜り抜けた。隣りでずっと難しそうな顔をする高尾はもう放っておくことにして、手を握ってきた涼太くんにさっきの続きを聞かせてもらうことにした。

レ モ ン と 足 音

0907