BIRTHDAY | ナノ
今日は、聖川さまの誕生日らしいですよ、と春歌ちゃんは可愛らしく笑った。そっか、と反応が薄い返事をした私に、春歌ちゃんはどうかしましたか?と顔を覗き込んで来て、心配そうな顔をした。何でもないよ。心配をかけないように笑って見せて、用事があるからとその場でバイバイをした。

きっと、真斗くんと春歌ちゃんは知らないんだろう。私があの話を聞いていたことを。

『…好きだ』
『聖川さま…』

思い出して、頭を横に振った。仕方ないよ、春歌ちゃん可愛いもの。真斗くんと春歌ちゃんがうまくいくなら、私の想いは伝わらなくてもいい。幸い、私の想いを知っているのはトキヤくんくらいだ。
早く帰って寝よう。そう思って足を速めると、自分の名前が呼ばれた。音也くんの声だとすぐに分かった。目を向けてみれば、音也くん、トキヤくん、翔くん、那月さん、それから真斗くんがいた。ばちりと真斗くんと目が合って、口が開いていくのが分かる。話しかけられる。きっと、今は話せない。そのまま寮の方へと走り出した。真斗くんが私を呼んだ気がしたけど、今は話したくない。

走って、走って、疲れた。けど、誰のものかも分からない足音が聞こえて、止めるわけにはいかない。もしかしたら、真斗くんかもしれない。…真斗くんだったらいいな。なんて、逃げてる理由とは逆のことを考えていて。

「名前!」
「と、トキヤくん…」
「何をやっているんですか、あなたは」

腕を掴んだのが、トキヤくんで安心したようながっかりしたような気持ちになる。ぽろぽろと、涙が出てきて思わずトキヤくんに抱きついた。いつもは、みんなとどこか距離を置いているのに、その時は違うように感じて。優しく私の背中を撫でてくれる。
嗚咽混じりに昨日のことを話せば、おかしいですね、とトキヤくんは考える様子を見せた。何がおかしいのか分からず、聞こうかと口を開いたときに、真斗くんの声が耳を通る。

「…一ノ瀬すまないが、」
「ええ。分かっていますよ」
「トキヤくん…?どこ、行くの?」
「一度、聖川さんと話したらどうですか」

トキヤくんの手を掴んだけど、優しく包まれて離された。そのまま、違うところに行ってしまって。この場に残されたのは、真斗くんと私の二人。気まずくて目を逸らせば、何かしたか、と言った。何もしてない、と首を振れば優しい真斗くんからは考えられない強さで肩を掴まれた。

「…え、と。誕生日おめでとう」
「ああ。…それより、俺はお前に嫌われることはしてないのか?」
「し、してないよ!嫌いになんて、なれない」
「…よかった」

真斗くんのよかったの意味が分からずに、逸らしていた目を合わせた。すると、とても優しく笑っていた。
やっぱり、自分の想いをとどめることなんて出来ずに、好きだと言えば力強く抱き締められた。

Happy Birthday

後に聞いた話によると、春歌ちゃんとのことは誤解だったらしい。妹さんが好きなんですか?好きだ。聖川さま…素敵なお兄さんですね。ということだったと。ああ、春歌ちゃんに悪いことしちゃったかな。後で謝りに行こう。それから、トキヤくんにはお礼を。音也くんたちにも謝ろう。

12/29 聖川聖誕祭