BIRTHDAY | ナノ
下級悪魔に手こずってしまった。眼鏡を外して、目頭を押さえる。最近は、悪魔の出没が多くて夜遅くまで働く事が多いため、疲れる毎日だ。おまけに、家に居ても兄さんの宿題の面倒を見なくてはいけない。どこに居ても休めない。はあ、と大きな溜息が漏れた。

「随分と遅いお帰りで?奥村クン」
「…名前さんですか。驚かせないで下さい」
「驚かせたつもりはないよ。君を待っていたんだ」

兄さんとの相部屋には、上司の名前さんが僕の方のベットに優雅に座っていた。普通の声量で離す彼女に、兄が起きてしまいます、と言って一度閉めた扉をもう一度開けて、廊下に出るように促した。仕方ない、という風に名前さんは廊下へと出て、僕も彼女の前へと立った。すれば、疲れた顔をしているぞ、と僕の頬に触れた彼女の手を掴み、寝不足です、と言って離した。

「…まあ、それは良い」
「用件は何ですか?」
「余裕だな。私と夜遅くに一緒で、何も感じないのか?」
「……そう思いますか?」

至って冷静に話す名前さんに、僕も冷静で返すしかない。外していた眼鏡を掛け直していれば、思わん、と断言するように高らかに笑った。だから兄が起きると言ったでしょう。彼女の口を手で塞げば、不満そうな顔をしてやめろと言った。
何もないのなら僕は寝ます。
きつく締まったネクタイを緩めようとすれば、名前さんは待てと言った。僕は早く寝たいんです。彼女を睨むように見たけれど、待てと言ってるだろう、と言われて終わった。さっきから彼女は腕に付いた時計を見ていて、よし、と言ったかと思えば、まだ緩めていないネクタイを引っ張られて、苦しくなる。苦しいです、と声を発しようかとすれば、それは彼女によって塞がれてしまった。

「Happy Birthday...」

発音のいい英語で、彼女は確かにそう言った。ああ、27日か。僕と兄さんの誕生日。最近、忙しすぎて忘れていた。名前さんに、わざわざそのために?と聞けば、最初に祝いたかったからな、とニヤリと妖しく笑って僕の唇をぺろりと舐めた。

Happy Birthday

もう我慢の限界だ。自分の中の理性が壊れて、彼女を壁に押し付けて貪るようにキスをする。年上で、上司で、いつでもリードを取る名前さんが赤い顔で、やめろ、と僕の肩を強く押した。けれども、男女の力の差でびくともしない。僕がリードをした時にいつもの真っ赤な顔で睨みを利かせる彼女の耳にそっと、あなたが悪いんですからね。と言った。今日は僕の誕生日なんで、何でもしていいですよね。

12/27 雪男聖誕祭