BIRTHDAY | ナノ
12月24日。彼の誕生日の日だから彼の下へ訪れた。近づいていくごとに、彼との思い出が頭の中を駆け回る。あんな話をしたな、とか。遥とのたくさんの思い出が、私の中ではまだ生きているんだ。
一歩ずつ彼の元へと近づいて行くと、真っ白の頭の少年が私の目的の場所に立っていた。彼の、遥の友達だろうか。

「こんにちは」
「…」

ぺこりと頭を下げる彼に、人見知りかな?という疑問が生まれる。じっと私を見るその目に首を傾げて、遥の友達ですか?と問えば、渋ったようにこくりと頷いた。
良かった。貴音ちゃん、来なくてはるかも寂しがってるだろうから。まだ、遥のことを覚えてくれてる人がいた。

「…名前、聞いてもいい?」
「…」
「ごめんね、まだ私が名乗ってないのに」

苗字名前です、と彼に向かい合って言ったけれど、逸らされてしまった。そうだよね、不躾だったかな。全く知らない相手に名乗るだなんて。
遥のことを、もう一度話せる人がいるのが嬉しくて…ごめんね。
彼に背を向けて、遥のお墓に向かってそっと手を合わせる。あんな形で今生の別れになるなんて、そんなことが分かっていれば。何度悔やんだだろう。彼は、遥と納得のいく別れが出来たのかな。貴音ちゃんも、納得のいく別れが出来たのかな。

「…会いたい、」

もう一度、遥に会いたい。私が代わりになってあげれれば良かったのに。すると、彼がやっと口を開いて、今日が僕の誕生日です、と言った。遥と一緒ね。そう笑えば困った顔をする。

「僕、九ノ瀬遥(コノハ)って言います」
「コノハ、くん?」
「…」

またこくりと頷いた。一瞬だけだけれども、彼が名乗る時に、コノハという言葉と同時に、何か違う名前も聞こえた気がした。…きっと気のせいよね。

Happy Birthday

遥は、あなたの事が好きでした。そよ風に揺れるような、囁くような、そんな比喩表現の出来るような声色でコノハくんは喋った。そうだったら嬉しいな。私も遥が好きだから。思い出すだけで涙が溢れてくる。そんな私の涙をコノハくんの指がそっと掬う。僕が…。その後は、急に風が舞い、少女の叫び声とトラックのブレーキ音でかき消された。…今日は、本当に12月24日だったの?

12/24 九ノ瀬(コノハ)聖誕祭