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あれからというもの、黄瀬はしつこいくらいに私に付きまとうようになり、とうとう起こり始めた嫌がらせ。私が嫌がらせをされているのを知っている人はいない。きっとやっている本人達だけだろうし、もし、知っている人がいたとしても黄瀬ぐらいだろう。

「うっわ!これめっちゃウマいっスね!」
「勝手に食べないで」
「いいじゃないスかー」

私に向かい合って座る黄瀬は私の弁当のおかずを勝手に取り食べ始める。本当にやだ、やめてほしい。
イライラはどんどん募っていくし、むかむかと胃が気持ち悪い。思わず席を立ち上がり、私にどうしたのと聞いてくる黄瀬を無視して教室を出た。
辿り着いた先は誰もいない裏庭で。やっと落ち着ける、と息を吐き出した途端背中を押されて気がついた時は今朝の雨で出来た水溜まりの中に落ちていた。
泥だらけになった制服を見て溜まりに溜まっていたものが溢れ出したように後から後から涙が溢れて水溜まりにぽつりぽつりと落ちていく。
こんなに泣いたのは森山先輩と別れた時以来だ、と変に傍観者になり。

「マコちゃん…?ど、どうしたんだ!?」

タイミングよく現れた森山先輩に、悲しそうに私を見る森山先輩に涙が余計に溢れて、付き合っていた間も泣きつくことなんてなかったのに、縋るように森山先輩に辛い、苦しい、と正直な気持ちが言葉になって漏れていく。

「マコちゃん…俺達、やり直そう」
「…っ」
「見てられないよ、嫌がらせされてるマコちゃんを」
「し、知って…」
「知ってたよ。…俺にマコちゃんを守らせてくれないか?……マコちゃんが好きなんだ」

泥だらけの私を力強く抱きしめてくれる森山先輩。制服が汚れる、と彼に言ってもいいんだ、と力が余計に強くなり。
好きだった、この腕が。温もりが。とくりとくりと速くなっていく鼓動に、私はまだ森山先輩が好きなんだ、と気づかされて。彼の背中に腕を回して、制服をくしゃりと掴み私も好き…と絞り出すように言った。