ゲーム、スタート | ナノ


澄枝サンが体育館から出るのを確認して、いつも通りムスっとした顔でコート内で練習する人らを見てる笠松センパイに声を掛けた。澄枝サンと笠松センパイが幼馴染みなのは分かったけど、俺の勘だけど森山センパイと澄枝サンも何かあった。俺はそう思ってる。だから、それを笠松センパイに関係を聞けば、言葉を濁しながら俺から目を逸らして…。

「教えてほしいっスー!」
「…俺が勝手に言っていいことじゃねぇんだよ」
「それって、二人が…」

その後に続く言葉は声に出せなかった。澄枝サンが戻って来たから。森山センパイが戻って来た澄枝サンを愛おしそうな目で見ていたから。
ショックとか、そう言う物よりも面白くて、楽しくて…。くるりと笠松センパイに背を向けて俺は口許を隠して笑った。ああ、もしこれで澄枝サンが俺に惚れてしまえば、とても楽しい三角関係になる。俺がこっ酷く澄枝サンを振ってしまえば、澄枝サンは森山センパイの所に行くだろうし、ハハッ…すっげー面白いことになりそうじゃないスか。
相変わらず自分の性格が悪いっていうことは分かってるし、直すつもりなんてない。こんな俺でも好きだって言い寄ってくるバカ女はいっぱいいるし、やっぱり外見って一番大事だ。

「大丈夫っスか?俺が手伝うっスよ!」

さっそく澄枝サンに近づいて、荷物を持ってあげようと声をかけた。ちらりと森山センパイを見てみると、やっぱり良い顔をしていなくて。恨めしそうに、憎そうな顔をして俺たちを見ていて。きっと澄枝サンも俺みたいなイケメンが笑って近づいて来て嬉しいはずだし。
そう思って目の前の彼女に目を向けると、心底嫌そうな顔で俺を見上げていて。うわ、ちょっと腹立つ。

「…いいから。向こう行って」
「遠慮しなくていいんスよ」
「いいってば」

差し出した手を叩かれてしまって、結構イラついてしまって。何だよこの女。苛立つ俺を無視して澄枝サンはどんどん歩いて行ってしまった。つまんね…。澄枝サンの消えた方向をじっと見ていれば、語尾にハートマークがつきそうな声音で俺の名前を呼ばれて振り向くと、たくさんの女子。
ああ、そうか。もしかしたらこの子らに何か言われたのかも。彼女らに笑って手を振ると騒ぎ出して、あーうるさいなーとか頭の片隅で思って。
澄枝サンには正直ムカついたけど、こんな風に周りの目を気にしてる時点で俺に落ちることは確実なんスよねー。ニヤケル口許を隠すように、いつも通り笑顔を張り付けてセンパイらのところに駆け出した。
さて、今回はどんな手でいこうかなー。

1105