ゲーム、スタート | ナノ


昨日、何故かわからないけれど、黄瀬と変なゲームをすることになってしまった。何が恋愛ゲームだ。嫌い同士の私たちがそういうことしたって楽しくないことわかるでしょ。
自然と大きな溜息が零れて手が止まると心配してくれた幸男が私の顔を見ながらどうした、と。それでもそんなくだらないゲームについて相談なんて出来るはずもなくて、何でもないとしか言うしかなかった。

「澄枝さん元気ないスね。大丈夫スか」

思ってもないことを聞いてくる黄瀬にまた溜息が出そうになったけど、何とか堪えて目を逸らした。相手にするだけでも疲れる。
私のそんな態度に、酷いっスねぇ、と軽く流す黄瀬はちょろちょろと私の周りをうろちょろして。鬱陶しいなぁもう。やめてよ、て声を上げる前に森山さんが間に入ってきて。

「何やってるんだ?」
「お喋りっスよー」
「そうか?マコちゃん嫌そうな…」

うんうん、と大きく頷くと森山さんは黄瀬の背中を押して練習に戻ってくれて。本当に助かった。あんな風にウロウロされてるの見られて女子に僻まれるのも、全部私だし。
黄瀬がいなくなっても大きな溜息が出て、やる気が一気になくなる。重たい腰を上げて洗濯物をすることにしようと体育館を出て。

「…いい気にならないでよ」

ぼそりと聞こえたその言葉は聞き間違いなんかじゃなく、はっきりと私に言われたものだ。いつも黄瀬の周りにいるその子たちは私を思い切り睨み、口々に本人を目の前にして悪口を言う。本当、性格悪。黄瀬にしろこの子たちにしろ。
構ってる暇なんてない私は返事をすることもなく彼女たちを通り過ぎて。罵倒が酷くなるけれど、相手にすればするほど駄目になるから。心を落ち着かせて、少し早歩きになった。

0908