ゲーム、スタート | ナノ


部活に無理矢理入らされてからというもの、何もかもが忙しくて仕方がない。インターハイなどに毎年出場する海常なんて、他の部活とは比べものにならないほどの大変さで、部員の何人かが手伝ってくれるからまだマシだけれど、マネージャー一人なんて普通に考えればおかしなことだ。希望の子はたくさんいるのに、黄瀬目当ての子ばかりで先生も幸男も許可なんて出さない。それは分かるけど、大変な思いをしているこっちからすれば、さっさと許可を出してしまえばいいのに、なんて思ってしまう。

「何スか、その顔」
「…もともとこんな顔です」
「普段はもうちょっとマシに見えたっスけどねー」

黄瀬の嫌味は毎日聞くし、マネージャーしてから良いことなんて一つもないような気がする。クラスでも部活でも黄瀬が傍に居ることが耐えられず、ドリンクを追加しようかと荷物を持って外に出ようとすると、森山さんが声をかけてきた。俺も手伝うよ、って自分も疲れてるはずなのに、気遣いをしてくれる。大丈夫だと伝えてみたけれど、聞いてくれる気配もなくて、持って行こうとした荷物を持ってさっさと外に出て行ってしまって。

「マネージャー業大変でしょ?」
「まあ、そうですね」
「ごめんね。でも俺たちもマコちゃんが入ってくれて助かってるんだ」

蛇口から出る水の音と、野球部、サッカー部の声がよく聞こえるこの場所に心地の良い風が吹く。俺、後悔してるんだ、と森山さんは言えばじっと私を見て、すぐに作り終えたドリンクを持ち上げて体育館へと戻ってしまった。取り残された私は呆気にとられ、まさかあの話しになるなんて思ってもいなくて、拍子抜けだ。

「サボんないでくんないスかー」
「…サボってないし」
「嘘、サボってるって言うんスよ」

いつの間にか出てきた黄瀬にまた絡まれて、面倒だからと無視して横を通り過ぎようとすれば、力強く肩を壁に押さえつけられてしまう。ギリギリと痛む肩に顔を歪めれば、俺のこと好き?、と黄瀬が首を傾げた。好きなわけない、こんな奴。有り得ない、と睨みつければ、ニヤリと口角を上げて笑った黄瀬がゲームをしようと切り出す。どういったゲームかも分からないし、何でも出来るって言われてる黄瀬に敵うはずもない。やらない、と首を振れば簡単なゲームだと黄瀬は笑った。

「アンタが俺に落ちたらアンタの負けっス」
「……は?」
「面白くないっスか?嫌い同士の二人が恋に落ちたら」
「面白くないって言ったら?」

「…アンタに拒否権なんてないっスから」

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