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何度も嫌だと言ったけれど、黄瀬は話を聞かずに私の鞄を持って体育館へと向かった。おかげで、私も行かなければいけない羽目になってしまい。たくさんの女子を引き連れる黄瀬。その集団とは少し離れた後ろを歩く私。突然、肩をぽんと叩かれて振り向くと森山さんがいた。

「どうしたの?鞄は?」
「黄瀬が持ってます」
「返すように言おうか?」

気遣ってくれる森山さんに、是非お願いしたいけれど、巻き込むわけにはいかないという気持ちも反面。今日は海常の練習見るので大丈夫です、と笑えばそっか、と森山さんも笑って練習について話してくれる。幸男は人使いが荒いだとか、監督は髭の生えたおじさんだとか。森山さんの他愛ない話が凄く楽しく感じる。

体育館につくと、黄瀬は立ち止まって私に鞄を返した。ニッコリと笑って、絶対に帰んないでね、と言うと森山さんと一緒に部室へと消えてしまう。
黄瀬のああいう笑顔は正直苦手だ。嘘に塗られた笑顔なんて、不気味で。
しかも、見て行けって言ったけど、こんなに人がたくさんいたら見ようがない。まあ、見るつもりなんてのはサラサラ無かったけど。

「…マコ?」
「あ、幸男」
「なんだお前、マネージャーやるんだってな」
「……え?」

幸男の突然の言葉に目を瞬かせていると、その後ろから黄瀬がやってきた。さっき言ってたじゃないスか、と嫌な笑顔を浮かべる。というより、海常は女子マネ募集してないって聞いたのに。そう言えば、黄瀬目当ての女子マネは募集してない、と訂正をされた。
なんなら何。私が女子マネをすることは決定っていうことなの?

「まあまあ、いいからいいから」

腕を掴まれたかと思えば、思いっ切り手を引かれて女子たちの前に一歩出る。物は試しっスよ、といつまでも腕を掴んで離さない黄瀬の手を振り払う。おかげで赤くなっていて。それでも黄瀬は笑顔のままで笑っていた。

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