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カチカチとボールペンの先を出しては戻し、出しては戻し・・・それを繰り返す音が先生の声だけが聞こえるはずの教室に響く。イライラとしているのは私だけみたいだ。くっついた机の間には、私の教科書があって消しゴムのカスでいっぱいだ。腹が立って、教科書を手に持ち、開いたままトントンとカスを落とす。くすくすと笑う声が隣りで聞こえた。

「消しカス、」
「ん?あぁ、凄い消しカスの量っスね」
「これ、私のじゃない」

イライラするのを押さえながらも隣りの黄色の髪をしている人物、モデルの黄瀬涼太を見た。黄瀬くんは、俺のだけど何スか?と有無を言わさないとでもいうように笑った。教科書を忘れたから見せてくれと言ったのは彼だ。クラスの女子の目が怖かったけれど、彼の黒い笑みに頷くことしか出来ずに見せたのだ。なのに、どうして私がこんな嫌がらせを受けなければいけないの。

「もう見せない」
「はいはい。いちいち怒らない」

流すように言うから、余計に苛立ってしまって、くっついていた机を離した。すると、は?と発し、お前勝手に何やってんだ、みたいな表情を見せた黄瀬に、思わず私も、は?と返してしまった。

「つまんな」

ガタリと椅子を引いた音と同時にチャイムが鳴って、号令がかかる。さっきの黄瀬の言葉は、私に対してなのか、授業に対してなのか。まあ、私に面白いなんてものを求められても、私はどうもしない。机を元の位置に戻さずに消えていく彼の後ろ姿を見て、ほっと息をついて、ゆっくりと黄瀬の机を押して戻した。どうせ、なんで戻してないのとか言うんだろうから。

それから私も立ち上がり、お弁当を忘れたと言っていた年上の幼なじみのもとへ、おばさんから預かったそれを渡すために三年生の教室へと向かった。

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