ゲーム、スタート | ナノ


午後の授業が始まる予鈴が鳴って気がついたように抱き締め合っていた体を離した。少しだけ、居づらいような、心地の良い空気が流れる。
森山先輩は困ったように笑って、保健室行こうか、と私の肩に制服を掛けて手を引いてくれて。保健室の先生は私の姿を見て驚いた顔をしたけど、にっこりと笑って背中を撫でてくれた。森山先輩は先生に授業に行くように言われて、私の頭を撫でてそのまま保健室を出て行った。

「どうする?早退する?それとも早退が嫌なら学校終わるまでいる?」
「あー…えっと、残ります。部活、あるんで」
「えっ、部活出るの?」
「はい。部長が幼なじみで、…心配かけるの、嫌なんで」

私の言葉を聞いた先生は笑って、じゃあ制服洗う?と言って学校の予備の体操服を貸してくれて、ベッドのカーテンをして着替えた。先生は私の制服を持って洗いに行ってくれて、ベッドに横になって、さっきのことを考えていた。森山先輩があんなふうに言ってくれたことが嬉しい。
そういえば、黄瀬があの時にゲームとか言っていたけど、やっぱりゲームする意味なんてなかったんだ、とぼんやりと考えてそっと目を閉じた。

***

「マコちゃん、大丈夫?」

目を覚ますと森山先輩が私の顔を覗き込んでいて、少し驚いた。ぱちぱちと瞬きをする私を見た先輩はクスッと笑って、部活行くんだろ?と体を起こすのを手伝ってくれた。
森山先輩の手には私の鞄と紙袋が握られていて、その紙袋の中身は私の制服だった。保健室の先生にもお礼を言って、先輩と一緒に体育館へと急ぐとギャラリーがいっぱいと来ていて、私を見るなり女子の目が鋭くなって一瞬だけ怯みそうになる。そんな私の手を握って先輩は体育館の中へと入った。

「遅ぇぞ!……お前ら、」
「あーうん、笠松。それは後で話す」
「…分かったから、さっさと着替えて来い」

幸男は森山先輩にそう言うと、残された私をじっと見て何も言うでもなく部活に戻って行った。何か言うなら言えばいいのに。既にジャージの私は、すぐに部活の準備を始める。ドリンクを作りに行こうかとボトルを持った時に、前のように黄瀬が声を掛けて来て、イラッとした。

「…手伝うっスよ」

私の有無も聞かずにボトルの入った籠を取り上げられて黄瀬はどんどん先に行ってしまって、私も仕方なくその後をついて行く。

「森山先輩とよりもどしたんスか」
「…黄瀬に関係ないでしょ」
「ゲームの途中なのに…ま、俺には関係ないスけどね。むしろ、こっちの方が面白そうだし」

にっこりと黄瀬が笑って、何故だかその笑みが酷く怖いものに思えて背筋が凍った。

140617