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ありがとう、と嬉しそうに笑ったあかりは「用があれば呼んでくださね」と言ってスッと消えた。敦はダルそうに僕の方へ視線を向けながら「赤ちん、大丈夫なの?」と。何が大丈夫なのか、というのはよく分かっている。それは、霊に協力して情を入れかねないのでは、という心配だろう。

「大丈夫だよ。それに、断ってその恋人へ何かするかもしれない…そっちの方が危険だろう?」
「そうだけどさー…」
「ま、赤司が決めたことならいいんじゃねぇの」

机で突っ伏して寝ているかと思った大輝は欠伸をしながら言って、敦もぎこちなく頷いた。さて、と立ち上がった時と同時に疲れを見せた表情で真太郎が戻って来た。どうやら終わったらしく僕を呼ぶから二人には席を外している間の番を頼み真太郎と一緒に休憩室へと行けば唸る涼太と茫然とした様子で天井を見るテツヤが横になっていた。

「気分はどうだ」
「赤司くん…すみません、僕が細心の注意を払っていれば…」

苦しそうに唇を噛んだテツヤの頭をぽんっと撫でてやると、ぎゅっと目を閉じて小さく涙を見せた。そして目を開けて隣りのベッドで唸っている涼太を見て、また苦しそうにした。「お前のせいじゃないよ。僕が気付けなかったのが悪いんだから」と、きっと慰めにもならないだろう。けれど、言葉で少しでもテツヤの気持ちが楽になるのなら。
隣りの涼太の顔色は随分と悪かった。もともと憑りつかれやすい体質の涼太には、ヤツに接近されて気に触れたのだろう。真太郎の除霊も済んでいる事だから、時期に回復するだろうが、数日かかるかもしれないな。

涼太の頭もそっと撫でて、ふと気がついた。もし、俺たちがこの休憩室を離れただけで涼太のもとにまた他の幽霊が来るのでは…と。真太郎も気付いていたみたいで眉間に皺を寄せて僕を見ていた。
結界、札を使って守ろうとすれば、きっと今の涼太には気分が悪くなるものだろうから下手に使えないな…と真太郎と話していればテツヤが思い出したように口を開いた。

「赤司くん、先ほどの幽霊の方は…?」
「ああ…あかりか。彼女がどうかしたのかい?」
「彼女なら、黄瀬くんを任せられるのではないでしょうか」

黒子の提案に少し考えた。確かに、先ほど話した時には悪意など感じられず、むしろこの二人を助けてくれたのは彼女だったのだ。俺も真太郎も、他の二人にしろ付きっ切りでここにいろ、というのも無理な話しだろう…。
はあ、と考えた末にあかりを呼ぶことにして、壁に向かって彼女の名前を呼べばニッコリ笑顔を見せたあかりがふんわりと現れた。

「…ちょっといいかい?」

そっと彼女に近づいて額を触ってみると、彼女の奥には闇がないこと…むしろ、光で溢れていることを確認したのちに、涼太の面倒を見てもらえるように頼んだら、彼女は笑ってもちろんです、と椅子に腰かけた。

数時間後に目を覚ました涼太の叫び声が建物内に響き渡った。

無事でいることが大事
(く、くくく黒子っち…!)
(落ち着いて下さい、黄瀬くん)
(だ、だって!わああっ来ないで欲しいっスー!)
(彼女は、僕たちを助けてくれた人です!)

0617