-273℃の絶対零度 | ナノ
依頼者からの頼みごとも終わり、事務所でのんびりしていると咳き込むテツヤと、顔を真っ青にした涼太が戻って来た。様子のおかしい二人に慌てて近寄れば、テツヤは安心したように笑って。その二人の首には何かに締め付けられたような跡がある。

「何があったんだ…」
「そ、れが…、先ほどの幽霊、がっ」

一生懸命説明をしてくれようとするテツヤの背中を擦っていると、ヒンヤリとした冷たい風が背後から流れ込んできて。胸ポケットに持っていた札を手にして振り返れば、驚いた顔をする女が立っていた。その女の足は透けていて。
まさか、この女が…。ゆらりと彼女に近づくと、テツヤに腕を強く掴まれた。彼女は違うんです、と。

「どういうことだ。テツヤ、涼太」
「…あ、私が説明しますね」
「……」
「こちらのお二人が危ない目にあっていた所を私が助けたんです」

幽霊の説明にハッとした。もしかすると、先ほどまで来ていた幽霊が二人を危ない目に合わせたということだろうか。目の前に立つ彼女にお礼を告げると、幽霊にしては珍しくふんわりと笑った。

「君の名前を伺ってもいいか?」
「あ、はい。私の名前はあかりって言います」
「そうか。…あかり、改めて礼を言うよ。二人を救ってくれてありがとう」
「いえいえ、こちらの事務所のことは以前から知っていましたので」

ふと、彼女の言葉に首を傾げた。何か噂でも流れているのか?と彼女に問えば、私も相談をしたいと思ってましたので、と照れ臭そうに笑っていて。相談というなら受けようと思い、奥のソファがあるところまで案内をした。
テツヤと涼太のことは真太郎に任せるとしよう。真太郎は除霊が得意だから、二人に憑りついている霊でもいたら払ってくれるだろう。

「それで、相談とは?」
「え、あ、実は私六年ほど前に事故で…」
「ああ」
「その時の恋人が今どうしているか知りたいと思ってまして」

六年間も恋人を思い続けて、この世に留まっていたのか…。それでも、その恋人を見つけてあかりはどうするつもりだろう。もし憑りつく、など恋人に対しての害があるならば協力が出来ない。
けれど、彼女の恋人の話をするときの表情は、とても優しくて幸せそうに笑っていて、何としても見つけてあげたいとさえ思った。

「分かりました。その依頼受けましょう」

依頼人は恋人探しの幽霊
(ちなみに、あかりの年齢を聞いてもいいかい?)
(えっと…死んだ時は22ですね)
(生きていたら28か…)
(そうなりますね)

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