-273℃の絶対零度 | ナノ
うすぼんやりと姿が見える女の霊は髪の毛で顔を隠していた。少し怪しいとも思ったが、僕がいない間に事務所に居た三人には何も被害がない事を考えると、そこまで警戒しなくてもいいかもしれない。

真太郎と涼太が話を聞いた所、人を探していると言ったらしい。細々だがそう聞こえたと二人は断言する。僕も聞こうとした時に、事務所の電話が鳴り出てみれば、先ほどの依頼人からの電話だった。早急に来て欲しいと彼らの焦りの声で何かがあったのだと悟り、今度は敦を連れて向かう。

「ど、どーするんスか!」
「一緒に探してやってくれ、頼むよ涼太、テツヤ」
「は、はいっス!」
「分かりました」

呼び止めたタクシーに乗り込み住所を伝える。少しだけ、事務所から嫌な気配を感じた気がしたが、今は依頼人の焦りようが頭から離れなかった。



「大丈夫ですか?」
「あ、あああの、あ、あそこ…」
「…うわー、どうすんの赤ちん」

依頼人の指さされた方向を見てみれば、血だらけの女が窓の外に呆然と立ってこちらを見ていた。時折、頭を窓ガラスに叩きつけている。念のためにと貼っていた札が効いているために入って来られない様子だ。
真っ青な依頼人から話を聞くと、必要な荷物を取りに帰れば現れたそうだ。どうして戻ったりするんですか、なんて言えるはずもなく。家からすぐに出ようとしなかった理由を聞けば、自分が動けばその幽霊も同じ方向へ進むのだ、と。

「やはり、この家を出て行かれることをオススメします」
「ひ、引っ越す…て、こと、ですか?」
「はい。家に住み着いているのでしょう」

取りあえず、外に出ましょう。自分の鞄に閉まってあった数珠を取り出し、依頼人へと渡す。そのままゆっくりとした足取りで玄関へと向かうと、扉の前に薄い影が見つかる。ゴン、ゴン、と先ほどと同じように頭をぶつける音。
扉の上、入り口へと札を貼り扉を開ければ、一気に飛びかかろうとする奴へと数枚の札を投げつければ、くるくると奴の周りを回って、僕が経を読み上げれば、苦しそうにして奴は札と共に消え去った。

「調査が終わるまで、此処には戻らないで下さい」
「は、…い」

呆然とする彼女を、先ほど案内したホテルへと連れて行こうと、またタクシーを止めて乗り込んだ。

恐怖を引き起こすのは
(絶対に戻らないで下さいね)
(はい…)
(戻る時にはお電話お願いします)
(あ、ありがとうございます…)

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