-273℃の絶対零度 | ナノ
フーフーと鼻息荒くその物体は立っていた。最初は攻撃をするのでは、と考えてみたが、そんな様子は感じられず。けれど、このドアから退くわけにもいかずに睨み合う。今頃、結界を張り終わった頃だろう。内ポケットへと手を入れて、取り出したのは一枚の紙。奴は、それを見た途端飛びついて来るように地面を蹴った。これが己にとって良くない物だと分かったのだろう。軽いステップを踏みトトン、右に避ければ僕のいた場所でブレーキを掛け此方を見る。即座に無理だと判断したのか近くになった扉から逃げようとした。

「逃がさないよ」

パチリ、指を鳴らせば扉を潜ろうとした奴の体に電流が走った。それも、そこら辺の電気とは違う。人間にはちょっとした痛みかもしれないが、幽霊にはとても苦しいものだろう。その結果が、目の前の奴だ。バタバタともがき苦しむ奴の額にぴとり、札を貼れば耳が痛くなるような叫びを上げて、煙となって空へと昇って行った。

「…もう、苦しくないよ」
「……赤司、終わったのか」
「ああ。お疲れ様」

奴が消えれば、嘘のように黒い靄が消えていた。この部屋を出て行く時に、先ほどの奴の顔が離れない。女、だった。苦しそうに目を歪めて、助けて、と密かに唇が動いていた。…忘れろ、呑まれるな。

「住人はどーする」
「また明日確認するから、やっぱり泊まりかな」

了解、と大輝は言うとテツヤに電話をしていた。暫くすれば、戻ってきたテツヤと三人で事務所に戻れば、青い顔をした涼太と難しい顔をした真太郎が一人の女性の前に座っていた。…女性?ああ、女は女だけれど、彼女は幽霊だ。

生まれ変わっておいで
(あ、あああ赤司っち!)
(…どうすればいいのだよ!)
(赤ちんおかえり〜)
(…ただいま)

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