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昔から、霊感が強くていつもみんなとは違うものばかりが見えていた。それが怖くて外にも出たくないと思っていたのは小学生の時。中学に上がってからは見てみぬフリをし続けた。目を合わせないようにと始めた読書でたくさんの本を読み上げて、気にしないようにと始めた将棋が趣味になっていった。

そして、23歳の春。僕は霊媒師になった。

自分の特殊なこの体質を活かしたいと思ったのは、友人の言葉が始まりだ。幽霊のように影の薄い黒子テツヤの言葉に、納得させられた。君がその能力で人を助けられたら、たくさんの方が救われるんでしょうね。モデルをしていていつも女に囲まれている黄瀬涼太には、最強っスね、うちのキャプテンは。占い信者の変なラッキーアイテムを持ち歩く緑間真太郎は、お前にしか出来ないことだってあるだろう。アホでエロくて肌の黒い青峰大輝は、いいんじゃねぇの、自分のしたいことなら。無駄にデカくてお菓子ばかりを食べる紫原敦は、じゃあ俺も守って貰おうかなー。

「赤ちーん、写真撮るってよー」
「ああ、分かった」

そうして、今僕たちは人を助けるために動こうとしている。もともと霊感は少しばかりあった彼らは、どうやら僕のせいで多少は見えるようにまでなったらしい。巻き込まれた以上、とことんついて行く。と言った皆の言葉に甘えて、この6人で活動を始めたのだ



「…で、涼太はこれから仕事か」
「そうなんスよ。すんません!」
「別に構わないよ。ただ気を付けて行くことだね」

了解っス、とさすがモデルと言いたくなる笑顔で早々と去って行った。それに涼太はもともと裏方っていうのは決まっていたし。モデルだから表に出ると女の客がうるさいからね。外に積まれたダンボールの箱を持って事務所になる場所へと入れば、既に置かれているソファでテツヤが横になっていた。もうばてたのか、と問えばすみませんと弱々しい声が返ってくる。全く、体力を作らせないとこれから大変だというのに。
もう一度箱を取りに行こうとすれば、奥の部屋で真太郎の怒鳴る声が聞こえて慌てて行ってみれば敦と喧嘩をしていた。

「これ全部お菓子、だと…!?」
「うん、そうだよ」
「これでは他の荷物を置く場所がないのだよ!」
「じゃあさ、ここお菓子の部屋にすればいいじゃん」

ふざけたことを言うな、と怒りに震える真太郎の肩に手を置いて、僕に任せてお前は荷物を頼むよ、と言えば溜息を吐いて出て行った。真太郎が出ていって、敦の周りに積まれたダンボールを見る。どれも「お菓子」と書かれていて、溜息が出た。仕方ないので、とりあえずはここに置いておくことにするだけだよと敦に言えば暫く考えたあとに頷いた。
その一室から敦と共に出れば、大輝と真太郎が立っている。なんだ、もう終わったのか。窓から外を覗けばダンボール一つ見当たらない。こういう所は仕事が速くて助かるね。

「じゃあ、各自の荷物は自分で整理すること」

様々な返事が飛び交い、それぞれの机の上には荷物が置かれる。何にもなかった机の上は、個々の個性が出る。途中でテツヤが黄瀬くんのはどうしますか、と言ったが僕たちが触ってもいけないだろうからと放っておいた。

こんにちは霊媒師です
(ただいまっス!)
(………)
(ちょ、誰か返事して!)
(ああ、帰ってたのか)

0929