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重たくなる瞼を一生懸命擦りながら、征十郎君が帰って来るのをソファに座って待っていた。時計の針はすでに0時を回っていて、本当ならば寝ているような時間だけど、彼がせっかく早く帰って来れるんだ、と嬉しそうに話していたから待っていたい。0時を回っていたら早いなんて言わない、って高校からの友達にも中学から友達の彼らにも言われたけど、征十郎君は普段は2時、3時…いや、酷い時は朝に帰って来ることもある。そんな彼が12時過ぎに帰って来られるなんて、私たち二人にとっては早いに入るもの。
がちゃりと扉の開く音がして、眠気も覚めて玄関に向かおうと思えば既にリビングの扉を開いた征十郎君は起きている私を見て少しだけ目を大きくさせた。

「まだ起きていたのか」
「うん、征十郎君を待っていたの。おかえりなさい」
「…ただいま」

今度は大きくさせていた目を少しだけ細めて笑った彼はそろそろと私のところまで近づいてきて、スーツを着たままなのも気にせずに私の膝に頭を乗せて横になった。
ふんわりと柔らかい髪を撫でると気持ちよさそうに目を瞑って、そのまま小さな寝息を立てて眠ってしまう。そんな子供らしい部分が残っている彼が愛おしくて、そっと彼の額にキスをして私もゆっくりと目を閉じた。




「た、大変…!」

目が覚めると、なぜかベッドの上で征十郎君と二人して眠っていて、時計はもう9時を回っている。征十郎君はもう出勤時間だというのに、彼にしては珍しく目を覚まさない。むしろ勢いよく起き上がった私の手を引いて布団の中に戻そうとする。

「征十郎君、遅刻だよ!」
「…ああ、大丈夫。今日休みだから」
「……え?」
「休み、取れたんだ。だから」

のっそりと起き上がった彼が私の手にキスを落として優しく笑う。ね?と彼に絆されるように布団の中へと戻って行って、私の体温より少し低めな彼が抱き着いて来て、目を閉じた。最近は征十郎君は仕事に追われてばかりだったから、今日ぐらい…と彼の唇に触れるだけのキスをして目を閉じた。

包み込むように、そっと
(愛と)(あなたを)

0327 thx.家出