thanks | ナノ
毎日毎日練習ばかりで、たまには外で息抜き兼合宿をしよう、と監督が言ってくれて、この夏初めての海に来た。もちろん浮かれているのは、私と高尾くらいで、あとの皆は冷静というか、気落ちしているというか…。海くらい普通に楽しんだらいいのに。
さっそく海に向かおうとする私たち二人に大坪先輩はそっちじゃない、と言って緑間に引っ張られるまま近くの体育館へ連れて行かれた。
いつものように練習する風景を見て、これじゃあいつもと同じじゃないのかなーなんて暑さでぼんやりとしながら考えていれば、監督に全員分の飲み物を頼まれて、クールボックスを渡された。

熱い浜辺で、重たいクールボックス。これ確実に死んじゃう。
楽しそうにはしゃぐ人たちに羨ましさばかりを覚えて、少し休憩しようとクールボックスを下した時に三人の男に絡まれた。

「すごい重たそうなの持ってるけど、大丈夫?」
「俺らが手伝ってあげようか?」

手伝ってくれるなんて、なんて優しい人なんだろう。だけど…うーん、この人達ちょっとチャラそうなんだもんなぁ。練習の邪魔されるのも嫌だし、断ろう。
大丈夫です、と愛想よく断るとヘラッと笑って、まあまあ、と肩を掴まれた時、少し低い声でおい、と呼ばれて四人揃って振り返るとさっきの練習中よりも汗を掻いた宮地先輩が立ってこっちを睨んでいた。先輩を見た三人組は、ぱっと私の肩から手を離してそそくさとこの場を立ち去って行った。

「どうしたんですか?あ、飲み物ですか?」
「は?」
「え、何でそんな怒って…あー、また緑間と高尾が何かしたんですか?」
「……さっさと行くぞ」

私がいくら聞いても宮地先輩は私を睨むばかりで、とうとう答える気もなくなったのか私が持っていた重たいクーラーボックスを軽々と持って先を歩いて行く。
慌てて先輩を追いかけて隣りに並ぶと、相変わらず不機嫌そうな顔で歩いていて…。じっと先輩を見ていれば、何だよ、と睨まれて怒ってるんですか?と聞けば、怒ってねぇよ、と明らかに怒っている声音で言われる。

「…よそ見してんじゃねぇよ」
「ん?なんか言いました?」
「何も言ってねぇよ、さっさと行くぞ」

本当は聞こえていた、なんて宮地先輩に言ったらどんな表情するだろうか。
私だってどうしたらいいの。こんな風に汗をいっぱい掻くほど追いかけてくれて、私のために怒ってくれて、自惚れちゃいますよ?…なんて、言えるわけないけど。

まあ、いっか。今は先輩の隣りを歩けるだけで幸せです。

いま君が愛しいと思えるこの瞬間
数時間後に逆ギレをされながら告白されるのは、また後の話。

0327 thx.唇蝕