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最近、気になる人がいる。

バスケ部で隣りのクラスの桜井良くんという男の子。
何故気になっているかっていうと、私の隣りの席の青峰とたまに話すのを見かけるから。そんなの普通じゃんって思うかもしれないけど、青峰だよ。人をあまり寄せない、近づくんじゃねぇ!みたいなオーラを出している青峰と話してるなんて。
桜井くんはよく青峰にすみませんって謝ってるから仲は良くないんだろうけど。

そんな桜井くんは今日も青峰に差し入れか何かを持ってクラスまで来ていた。きょろきょろと辺りを見回す桜井くんに仕方なく私が近寄って、青峰はサボりだよと教えてあげると大きな目を一段と大きくさせて私を見る。

「…桜井くん?」
「は、あ!す、スミマセン!」
「え…いや、別に謝ってほしいわけじゃ…」
「スミマセンスミマセン!」

親切心で話しかけたのに、何故か謝られてしまってこっちが申し訳なくなる。顔をあげない桜井くんに、もしかして私のことが嫌いだったのだろうかと焦ってしまっていれば、そもそもの原因である青峰が素知らぬ顔で帰って来た。
呑気に欠伸なんてして。

「あ?何やってんだ、テメーら」
「…桜井くんアンタに用があるんだって」
「え、いや、ち、違います!」

さっさと退散しようと思っていたのに、桜井くんに腕を掴まれて行く手を阻まれてしまう。って、あれ、なんで私腕掴まれてるの。私の腕を掴む本人の顔は真っ赤だし、何だろうこれは。
状況について行けなくて青峰を見上げたけど、欠伸どころか鼻穿ってるし、汚い。
桜井くん?と声を掛けても、一向に顔を上げなくて困りに困り果てているとさつきちゃんが通りかかって少しだけ不思議そうな顔でこっちを見ていた。

「どうしたの、みんな」
「いや、私もよくわからなくて」
「……そっか!名前ちゃん、ちょっと桜井くんとジュース買いに行ってもらえない?」
「なんで私、」
「俺コーラな」
「いや意味分かんな」
「私は紅茶!」

結局、俯いたまま顔をあげない桜井くんと二人で青峰とさつきちゃんのパシリにされて。私、桜井くんとは初対面なんですけど。静かな空間で、ジュースが取り出し口に落ちる音だけがやけに大きく聞こえる。
静かなのが耐えられなくて、桜井くんに他愛もない話を振ろうと思えば今までの彼からは考えられないような大きな声で私の名前を呼ばれて驚いてジュースを落とした。

「ぼ、僕…」
「…」
「僕…!」
「あ?桜井じゃねーか」

桜井くんの言葉の続きをドキドキしながら待っていたのに、二年生の色の上履きを履いた人に遮られて言葉の続きもムードも壊れた。目の前の桜井くんは今まで見たことないほどの怒ったような顔をしていて、それにも少し驚いたり。でも、そんな桜井くんを知れたことが少し嬉しかったりもした。

ごめん、青峰、コーラ落とした。

どうやら春が近いようで

0327 thx:家出