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コンコンと白い扉をノックし、右に引いた。白い肌に薄いピンクの寝間着を着た幼なじみが振り返る。ベッドの脇には点滴が置かれていて、今まさに彼女に繋がっている。調子はどう?ご飯は食べれた?よく眠れた?一気にたくさんの事を聞けば、征くんてばお母さんみたい、とクスクスと笑った。良かった、笑ってる。


「調子は、だいぶいいよ。けどね、ご飯は吐いちゃったから・・・あ、でもいーっぱい眠れたよ!」

「そう、良かった」


ふふふ、と笑ってたくさん話す彼女に、相槌を入れてやれば、もっと素敵に笑う。征くんは今日どーだった?と、学校の話をキラキラと目を輝かせて待つ彼女に、友人が先生に追いかけかまわされていたことや、おは朝信者の友人の今日のラッキーアイテムは土下座してあるストラップだったことや、たくさん話してやれば、うんうんと笑って楽しそうだね、と言うから自分も笑って楽しいよ、だからお前も早くおいで、と言ってやる。


「征くんと同じ学校行きたいなあ」

「うん、俺も一緒がいいよ」

「じゃあ早く退院しなくちゃ」


ぐっとガッツポーズをする彼女に、そうだな、と頷いてやる。ああ、幸せだ。今日は何もないみたいで安心だ。そう思っていた矢先に、とても苦しそうな咳をしだす彼女。口を覆っていた掌には血があって、冷や汗が、背中を伝った。どうすれば・・・。頭の中が真っ白になって、そんな時に看護士が来て素早い対処をした。
俺は、何も出来なかった。無力だ。


もう落ち着いたみたいね、と看護士は笑った。彼女も笑ってお礼を言っている。部屋から出て行く看護士に、自分も礼をすると返してくれた。


「ごめんね、征くん」

「お前が謝ることじゃないよ」


ぎこちない笑みを見せる彼女を見るのが辛くて、ぎゅっと手を握ってやると驚いたみたいだけど、いつもの笑顔を見せてくれた。
学校、は、無理かも。ズキズキと痛み出す胸に頭。半分、分かっていたのかもしれない。彼女の病気が治らないことも。


「・・・弱音なんて吐くな」

「私だって!私、だって・・・そんなこと、言いたくないよ・・・っ」

「じゃあ、」

「仕方ないじゃん!叶わない希望なんて、私を絶望させるだけでしょ・・・!」


ポロポロと零れる涙が布団に染みを作っていく。彼女の未来にも、俺の未来にも。征くんと、同じ学校に行きたかったよ・・・っ。征くんと、一緒に、生きたい・・・。絞り出す彼女の声に、胸が苦しくて、くるしくて。子供の俺には、愛する人をどう慰めるかなんて方法は思い浮かばなくて、この支えられない気持ちを紛らわせるために抱き締めた。


「俺が、お前を世界一幸せにする。俺が、世界一の幸せ者になる」

「そんなこと・・・っ」

「一番が似合う男なんて、俺しかいないだろ?」


誰のために全て一番を取ってると思ってるんだ。勉強でも、運動でも、全てにおいて一番の俺だ。一番愛する女を一番幸せに出来ないわけがないだろ。
そっと涙を拭って微笑んでやれば、世界一幸せなのが私で、幸せ者が征くんじゃ矛盾してるよ、と目一杯に涙を溜めて笑う彼女に、そうだな、と笑った。


君の幸せが僕の幸せ

世界中の人を、神様を敵に回そうが、俺は彼女だけの味方だ。むしろ、とても優しい彼女を辛い目に遭わせた神様なんて、俺が倒してやろう。運命が何だ。そんなもの鼻で笑ってやる。運命なんて、全て俺が壊してやる。俺が、全てのことを決める。彼女は生きて、俺の隣で幸せそうに笑うのが正しいことなんだ。

1014
中学赤司くんは、一人称が俺でしたので。そして、赤司くんが一番に固執する理由、みたいなのを書きたくて。