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シン、と静まる部屋ではパラパラと本のページを捲る音だけが聞こえる。または、カリカリとシャーペンを走らせる音だ。暇だったからゆっくりと室内を見回すと、たくさんの本を持った同じ図書委員の子を見つけた。細身の彼女には重たそうな量の本だ。というか、実際重たいのだろう。フラフラしながらも移動しては本を置いて、を繰り返している。少し零れた笑みを隠して、彼女の持つ本を僕が持った。


「重いでしょう?僕が持ちますよ」

「黒子くんが?重いよ?」

「失礼な。僕の方が貴方より力はあります」


クスクスと笑いながら、少し失礼な発言をした彼女に怒った風に言うと、ごめんねと笑うから仕方ないですね、と笑ってしまう。
よいしょ、と持ち直した本はとても重くて、よく彼女が持てたなぁ・・・なんて感心した。移動する彼女についていく僕。だんだんと本が減っていき、人も減っていく。最後の一冊を置いた時には僕らだけだった。疲れたー、と伸びをした彼女が可愛らしくて、痺れた腕をさすりながら笑うとそっと彼女の手が触れる。どきり、高鳴る胸。


「黒子くんにしては頑張ったね」

「どういうことですか。バスケ部員を嘗めないで下さい」

「ふふ、そう言えばレギュラーだったよね」

「はい。・・・知ってたんですか?」


彼女が僕のことを知っててくれた。こんなに嬉しいことなのか。うん、赤司から聞いたことあるから。その言葉にはどん底まで突き落とされたけど。そうですか、と言った僕の声は暗くて。
帰ろうか、と彼女が言いカウンターまで行くと、自分と僕の鞄を取ってきてくれた。ありがとうございます、鞄を受け取り肩に掛ける。彼女も同様に肩に掛けた。その時、一冊の本が落ちる。落としましたよ、と拾い上げたそれは、以前に僕がオススメした本。ヒロインが彼女に似ているのだ。


「読んでくれてるんですね」

「うん。面白そうだし、それに」

「それに?」

「主人公が黒子くんに似てるから」


ぶわり、吹き込んだ風が僕の髪を、心を躍らせた。この本は、恋愛ものだ。主人公とヒロインが恋に落ちる話。主人公は僕で、ヒロインは彼女。これは、脈ありとでも受け取っていいのだろうか。
抑えきれなくて、溢れるこの気持ちに正直に従い、彼女の手を取り手首にキスをした。きっと、頭のいい彼女には分かるだろう。


怪獣が目を覚ました


僕が微笑み彼女を見れば、考えた後に顔が真っ赤になった。ああ、もう、それが可愛いんですよ。少し強気な彼女が汐らしくなる、それが尚可愛い、愛しい。さあ、帰りましょう、と手を握ると戸惑い気味に握り返してくれた。


1014
手首へのキスは、欲望のキス。拍手の黄瀬夢の黒子の続きみたいな。