thanks | ナノ
日頃の練習が終わって、今は自主練をする一軍だけが残っていて・・・と言ってもレギュラーしか残ってないスけど。そんな中でベンチに座ってクリップボードと睨めっこをする彼女を横目で見て、手に持っていたボールを放った。あ、外れた。
真逆のゴールで黒子っちと自主練をしていた青峰っちがヘタクソ、と大きな声で言うからうるさいっス、と返して、余所に行ったボールを取りに行った。ふう、と一息ついてもう一度ベンチを目をやれば、赤司っちと緑間っちが彼女の傍に立ってボードを覗き込んでいた。・・・つーか、近くないっスか。
モヤモヤと黒い何かが心に影を作って、何だこれ、と胸元でシャツを握りしめた。すると、赤司っちたちと楽しそうに話していた彼女が突然俺の方を向いて目が合う。やっべ、見てたのばれる。咄嗟に逸らそうとしたけど、ふにゃりと可愛らしく笑うものだから、自分もつられて笑った。


「今日は調子悪いですね」

「うわっ!?く、黒子っち!」


またゴールを外してしまって、クソっと舌打ちが出てしまった時に黒子っちが俺の隣りに現れた。びっくりするじゃないっスかー、と笑うとすみませんと謝るから別に謝ってほしいわけじゃないっスよ、と慌てて弁解する。そこでまたベンチに座る彼女に視線がいってしまって、今度は汗をいっぱい掻いた青峰っちが隣りに座っていた。また、近い。


「・・・そんな気にするなら行けばいいじゃないですか」

「ぅえっ?な、なんのことっスか」

「誤魔化せてませんよ」


彼女が気になるんでしょう、と言う黒子っちにそんなわけ、と否定しようとすれば、ありますとバッサリ切られて。それでもうじうじと動かない俺に黒子っちが痺れを切らしたかのように溜息をついて、彼女のもとへと行ってしまった。黒子っちまで行ってどうするんスか、とまたモヤが掛かって。真っ直ぐと彼女に向かっていけば、何かを話してるみたいでキョトン、と目をパチパチ瞬かせて可愛い顔をして立ってる黒子っちを見上げる彼女に胸がきゅうっと締め付けられる。
なんか、おかしい。胸のあたりをトントンと叩いていると、涼太くん、と可愛らしい声が俺の名前を呼ぶ。ベンチに視線を向けたけど、俺を呼んだであろう彼女はいなくて黒子っちと青峰っちが座っていた。パッと下に視線を向けると、探していた人物。


「テツヤくんが、涼太くんが私に話があるって言ってたんだけど、なーに?」

「え、く、黒子っちが?」

「うん。大事な話なんだって?」


あー、もう。黒子っちてば、余計なお世話っスよ、なんて考えてるのに口許は緩んでいって。小首を傾げて俺を見上げる彼女が、ああ、もう可愛すぎるっス。ドキドキと速くなる鼓動の理由なんて分からない。彼女を見て幸せになるのも苦しくなるのも、経験のない俺には分からない。ただ、俺の言葉を待つ彼女に気が付けば口が動き出していた。


「き、きょ、今日!一緒に、か、えらないス・・・か?」


いいよ、と花が咲くような笑顔を見せてくれた彼女に小さくガッツポーズをして。そうして放ったボールは、吸い込まれるようにゴールに入った。


今晩ご一緒しませんか?


あとで黒子っちに意気地なし、なんて言われたけど、まだまだこれからっスよ、と笑顔を向けてまたボールを投げればゴールに入る。一度目を見張って、そうですね、と伏せ目がちに微笑む黒子っちにもきっと想い人がいるのだろう。ありがとう、お互い頑張ろう。と言葉を贈れば、どういたしまして、それと僕より君でしょう、と笑った。まあ、まだまだ頑張りますけど。と言った言葉は聞かないフリをしてあげよう。

1012
ピュア黄瀬くんとか、ヘタレ黄瀬くんとか好物です。