thanks | ナノ
暇な授業に欠伸は止まなくて、何度も何度もそれを繰り返す。眠たいという眠気にも負けようになったころ、私の机に折り畳んである小さな紙が姿を現した。それを広げてみてみると、寝るな、という淡々とした文字。隣の七瀬くんを見てみたけれど、彼は前を向いたまま反応なんてなかった。けど、この字は七瀬くんだ。今までも数回だけど、こんな風に彼から紙が回ってくることがよくあったから、これに見覚えがある。

「七瀬くんって、よく周り見てるよね」
「…そんなことない」
「でも、私が眠そうなの気付いたでしょ?」
「それは、」

授業が終わって隣の席の七瀬くんに向かい合って話して。七瀬くんの言葉の続きを待とうとししていたのに、ぺしりと後頭部を叩かれた。七瀬くんの目線は私の後ろで、私も上を見ればきゅっと鼻先を摘まれ。
やめてよ松岡くん、と声が変になりながらも彼に訴えるけど何ともない顔で手を離された。本当、乱暴だなぁ。まだ少しじわじわと痛む鼻をさすりながら七瀬くんに視線を戻して。言葉の続きは?と聞けば、忘れた、なんて。冷たい返事。

「もう、松岡くんが入ってくるから」
「知るか、関係ねーよ」
「あ。そういえば二人って幼なじみだったよね」

私の机に縋る松岡くんは、短く頷いて七瀬くんも同様に頷いた。それから七瀬くんは、真琴も幼なじみだ、と言ってみんなで橘くんに視線が移る。女子に優しくする橘くんを見て、つい口から橘くんって可愛いよね、なんて出た時にはもう遅かった。
どういうところが?なんで?真琴が好き?
マシンガンのように降り注ぐ質問にたじたじになって答えられないことすら二人は気にする様子なんてなくって。

「もうっいいから席戻りなよ」
「あ?ハルはいいのかよ」
「俺はここの席だ」

どうしてこんなに二人は突っかかってくるのだろう。間に挟まれて大変なのは私だし、なんか松岡くんに至ってはたまに怒ってくるし。
はあ、と大きな溜め息をつくと、また回ってくる紙には、凛のことは気にするな、と書いてあって。松岡くんのことだけじゃないんだけどなぁ…。

放課後になってしまえばこっちのものだと意気込んで、早々とリュックを背負って七瀬くんにバイバイをしようとした。そう、しようとしたのだ。現在進行形だ。
けれど、それも過去形になって。がっしりと七瀬くんに手を掴まれている。逃げられない状態だ。

「な、七瀬くん…?」
「一緒に帰るぞ」
「えっでも」
「おい、ハル!」

そこに松岡くんが登場。正直ややこしくなるから登場しないでほしかったのが本音。反対の手を掴まれて、こいつは俺と帰るんだ、と引っ張られ。それを七瀬くんが引っ張り返し、綱引きが始まる。
痛い。はっきり言って、何をそんなに取り合う必要があるのかわからない。二人の間に何かあることはわかったけど、私関係ないんじゃないかな。なんで巻き込まれてるの。

「三人で帰ろう?ね?」
「ッチ」
「…」

もうこうするしか方法のない私は、二人の間に立って永遠に続く口論を聞きながら帰った。掴まれたままの手首はたまに引っ張られたりして。これじゃあ、私が美男子二人を侍らせてるみたい。
まあ、そんなドラマみたいな展開あるわけないか。

ふわふわ心中
七瀬くんと松岡くんに告白されて慌てふためくのはそれから一週間後の話

0912 thx.夜途