thanks | ナノ
海と砂が擦れるような心地の良い音。足を持って行かれるような感覚が気持ち悪くも、心地良くもあった。海の向こうには三つほど小さな島があって。キラキラと輝く目でそれを見る岩鳶水泳部の遙、真琴、渚、冷。
ああ、やっぱり夏は海だなぁ!わくわくとするテンションとは裏腹に夏合宿をしにこの島に来たアイツに腹いせでもしてやる、と一人別のことに意気込む。私の青春を奪ってくれた鮫柄め、覚えてろ!

「なにやってるの?」
「へ、あ、何でもないよ!さあさあ、みんな泳いでらっしゃい!」
「そ、れ、よ、り!ちょっとだけ遊んでからにしようよ!」

いつの間に着替えたのか、水着姿のみんなに口論する前に腕を引かれて海の中に入れられた。やっぱり海はしょっぱくて、頭から濡れた私はみんなを追いかけ回して。ああ、江がいたら遊ぶなって怒られるなぁ、なんて頭の隅で思いながらも、なんだか楽しくてこのまま楽しんじゃえとも思ったりして。

案の定、何やってるんですか、と江の大きな声が響くほど大きな声で怒られて。ごめん、と笑ってごまかしたけど、江厳しいからなぁ。みんなが泳ぐ時に、いってらっしゃい、と見送りをしているとくしゃみが出て。ああ、さっきの海の時のだ。腕をさすっていると、後ろから大きなパーカーをかけられて。真琴はただ笑っていってきます、と駆け出した。
本当、真琴って紳士だよなぁ。かけられたパーカーに腕を通したら余りがたくさんあって、男の子ってこんなに大きいんだって自覚して。
夜にはバーベキューで、ピザとサバとか、ピザとパイナップルとか。変な組み合わせにするし、強制で食べさせられて。

「…名前、携帯鳴ってる」
「え?ああ、ありがとう」

遙に言われて携帯を見ると、今日同じ島で合宿をしている凛からの電話だ。みんなから離れて電話に出てすぐ、草むらの影から手が伸びてきて。
眉間に皺を寄せた凛が目の前に現れていた。また怖い顔して、と笑うと肩を押されて木に押さえつけられる。

「…なんでいんだよ」
「合宿だよ」
「ふざけんなよ。合宿なのに、何でお前は男物の上着着てんだよ!」

真琴が貸してくれたの。そんな風に真琴のパーカーぐしゃぐしゃに掴むのやめて。凛にそう制止の声をかけると、小さな声でお前はいつも…とか、俺よりも…とかぶつぶつと呟いていて。心配になって凛の顔を覗き込んだ瞬間に噛みつくようなキスをされ。やめて、と言おうにも言えない。言う暇なんて与えてくれない。

「お前は…っ!俺の、だ…!」

うん、わかってる。私も凛だけ。
今日はホテルには帰れないかもしれない、なんて考えたりして。だけど、凛を置いていけないし、突き放せないし。ぎゅっと背中に腕を回して凛を抱き締めた。

なにも掴めなくなるくらい

0910 thx.夜途