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珍しいこともあるんだ。お兄ちゃんがおは朝のラッキーアイテムを玄関に忘れて来るだなんて。朝練があるからと先に出たお兄ちゃんの数十分後に私が出る準備をしていると、可愛らしいブレスレットがあった。それは、私が小さい時にお兄ちゃんに作ったもので。えーと、今日のラッキーアイテムって何だっただろう?首を傾げて、眠たい中でも聞こえていた事を思い出す。確か、思い出の品…だったよね。思い出の…。もう一度ブレスレットを見て、嬉しくなった。仕方ないなぁ、届けてあげよう。
いつもより少しだけ早歩きをして、まだ朝練中であろうお兄ちゃんがいる体育館へと向かった。

「…あの、すいません。緑間真太郎いますか?」
「…緑間の知り合いか?」
「?!…へ、あ、はははい!いっ、妹で…っ!」
「焦らなくていい。舌噛んで痛かっただろう?」

うわあ!うわあ、うわあ!たまたま扉の近くにいたから話しかけたら、とってもかっこいい人だ!この部にキセリョがいるって聞いてたけど、キセリョより好きだ…!優しく笑って頭を撫でてくれた王子様は、ちょっと待ってろ、と言ってお兄ちゃんを呼んで来てくれた。

「!…お前には感謝するのだよ」
「どういたしまして。ねえ、それより。あのかっこいい人名前なんて言うの?」
「赤司か?…あ、あいつはやめるのだよ!」

顔を真っ青にしたお兄ちゃんは、私の肩を掴んでぐわんぐわんと大きく揺すった。うえ、気持ち悪い。大丈夫だよ、優しかったから気になっただけ。お兄ちゃんを安心させるために、私の肩を掴む腕を取って笑ってみせた。
なんて言ったけど…。体育館から出るときに、ちらりと視界に映った赤色の髪に目を向けると丁度目が合って心臓が飛び跳ねた。こんな気持ち、初めて。

***

「はあ…」

私の恋は、一日で呆気なく散ってしまった。廊下でお兄ちゃんと赤司さんを見つけて、声を掛けようと思ったのに、とても可愛いピンク色の髪の人が赤司さんに話しかけた。とてもお似合いの二人にカップルなのかと疑問が巡る。だからお兄ちゃんは、やめとけなんて言ったのだろうか。
もう一度大きな溜息を零した。一目惚れだったけど、本気だったのにな。

「溜息なんかして、どうした?」
「恋患いです……あ、あああ赤司さんっ?!」

な、んで、赤司さんが家にいるの?!パニックを起こしてしまって、パクパクと口を動かすしか出来なかった。すると、くすくすと笑ってから、緑間が入れてくれたんだよ、と初めて会った時のように頭を撫でてくれた。その優しさが嬉しくって、好きだなぁ、と改めて実感させられる。

「俺も好きだよ」
「……え?あ、れ、私、今の声に…?」
「出てたね」

途端に顔に熱が集まって、ぐるぐると部屋の中が歪んで来た。え、え、と何度も言葉にならないことを言っていれば、私の手を取って王子様のように指先にキスをして微笑んだ。

君のハートを食べたのさ

俺は何とも思ってない子の頭なんて撫でたりしないよ。赤司さんの目が真っ直ぐと私を捉えて、反らすように顔を下へと向けた。でも、最初にお兄ちゃんの知り合いかって、聞いたので、私のこと知らなかったんじゃ?と問えば、くすりと笑った。何故だか、背筋がぞわりとする。困った顔が見たくてね、と。それと、桃色の髪の人はマネージャーだったらしい。

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